高度専門留学生育成事業 国立大学法人 山形大学
■ 6年間の事業の成果
山形大学の位置する東北地域は、観光業や農林水産業に加えて、ものづくり産業が集積している地域です。グローバル経済が進展し、円高基調が続くなか、多くの企業がこれからの事業継続と新規市場開拓を目指して、海外に進出しています。また平成23年3月に発生した東日本大震災の影響(特にエネルギー問題)により、海外進出を新たに検討する企業も増えています。山形県は、ものづくり立県であり、全国的に見ても企業の海外進出率が高い点に特徴がある反面、海外での事業展開やマネジメントを担う人材不足が、長く懸念されてきました。
本プログラムでは、このような山形県の抱える問題点を克服するために、優秀な留学生を受け入れ、県内企業の得意とする組込システムなどの教育を施すとともに、日本語能力の向上、日本社会の理解、インターンシップなどを通じて、地元企業の国際展開に寄与できる文理融合型の人材育成を行うため「とうほくものづくり国際人財育成プログラム-とうほくMITRAI-」に取り組んできました。
このプログラムにおける成果は数多いのですが、幾つかを敢えて挙げるとすれば、次の5点があります。
まず1番目は渡日前入学試験制度の創設です。海外から直接出願し、インターネットのテレビ会議システムを用いて入試を行う制度を平成22年度から開始しました。この試験は私費留学生を対象としたもので、これまで3年連続でこの試験制度を用いて私費留学生を受け入れています。本専攻に入学する約半数の留学生は、この制度を使って出願・受験・入学をしています。留学生の能力も、国費留学生と大差ないレベルを維持しています。渡日前入学制度は、政府奨学金(学習奨励費)の支給を受けやすいために、同制度を利用して入学した学生は、現在のところ100%が、半年間の学習奨励費を受給しています。
2番目は就職支援の体制確立と全員の就職達成です。平成20、21、22年度に入学した学生は、全員が国内企業に就職を果たしています。新しく創設した「もっとみらいコンソーシアム奨学金制度」(後述の山形県内企業就職希望者向け奨学金)の利用もあり、平成22年度以降は、同奨学金受給者の100%が山形県内企業に就職する予定です。
3番目は短期間での日本語修得体制の確立と、日本語能力試験1級(N1)の全員合格達成です。本専攻では、正規科目以外に、日本語基礎集中(Ⅰ・Ⅱ)、日本語上級を受講できるようにしており、これらの総合的な日本語教育の成果だと考えられます。
4番目は海外における認知度向上と出願者数の増加です。プログラム採択中は、計9名の国費留学生を受け入れてきました。自立化後は私費留学生に制度が変更になりましたが、これまでに計10名の留学生を受け入れています。近年は出願に関する問い合わせや出願者数も増加傾向にあります。
5番目は地域の産学官連携の大幅拡大です。山形県が平成23年度に策定した「新国際経済戦略」では、国際人材の育成のため、本プログラムとの連携が明記されました。山形大学大学院理工学研究科の位置する米沢市とは、市内の企業国際化支援事業の一環として関係を強化することが決まりました。これらの連携を基にして、現在は奨学金の提供、インターンシップ事業や就職支援事業の共同実施が行われています。また日本政策投資銀行や海外の大学・語学学校との協定締結も行われ、学生募集への協力や企業の国際化支援などで協力を行っています。
上述のような3年半にわたる取り組みの成果もあり、平成24年度には新たに文部科学省の「留学生交流拠点整備事業」と「国費外国人留学生の優先配置特別プログラム」に採択されました。今後はこのような新規事業にも取り組みつつ、アジア人財資金構想で培ったノウハウを活かし、幅広く人材育成を行うことで、山形大学の国際化強化と高度外国人材の地元企業への就職支援を推進します。
■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容
産官学金を軸にしたもっとみらいコンソーシアムには現在、約40社・団体が加入しています。加入を頂いている企業は、全て有償会員となっており、この会費や企業向けのイベントを通じた事業収入などが、全て留学生の奨学金に充当されています。
本専攻で学ぶ留学生は、大学院理工学研究科ものづくり技術経営学専攻とうほくMITRAIコースに所属し、40単位を修得のうえでで、修士論文に合格することで修了要件を満たします。本専攻のカリキュラムは次のようになります。
【産学連携専門教育】
地元企業のニーズを反映させた形で開講した産学連携科目については、自立化後も全て継続することにました。現在はカリキュラムを再編したうえで、以下の科目を留学生向けに開講しています。
□ 組込システム特論(2単位)
組込システム概論・演習Ⅰを再編した科目で、組込システムの各種概念と基礎技術を学びます。企業見学を通じて実際の開発・設計の活用方法についても学習します。
□ 高機能デバイス特論(1単位)
組込システム演習Ⅱを再編した科目で、製品開発や技術戦略立案のため、実習を通じて高機能デバイス技術を学びます。
□ グローバル戦略マネジメント(2単位)
グローバルマネジメントⅠを再編した科目で、グローバル展開に際し、バリューチェーン上の経営資源を世界的視野で最適配分する方法を理解します。
□ 国際取引リスクマネジメント(2単位)
グローバルマネジメントⅡを再編した科目で、国際取引の開始から終了までに生起するリスク対応について学びます。
□ 国際商取引法(2単位)
グローバルマネジメントⅢを再編した科目で、国際商取引法における売買契約について学び、その成立・効力、品物運搬、支払手段などについて理解します。
□ アカウンティング(2単位)
グローバルマネジメントⅣを再編した科目で、ビジネスにおける基本言語である会計について学びます。貸借対照法、損益計算書、管理会計を具体的に理解します。
□ みらい経営創造特論(2単位)
生産革新特論Ⅰを再編した科目で、トヨタ生産方式について理解し、実際に企業訪問を通じて生産システムについて学びます。
□ ものづくり創造特論(2単位)
生産革新特論Ⅱを再編した科目で、計画・品質管理・工程管理・信頼性・開発・問題解決・論理的思考法に関する各種技法と方法について学びます。
また留学生の日本企業への就職と国際展開を見据えて、以下の科目を、学生の希望に応じて選択履修できるようにしています。
価値・事業創造特論(2単位)
技術経営学概論A・B(各2単位)
コーポレートファイナンス(2単位)
マーケティング・セールスマネジメント(2単位)
マーケティング・戦略論Ⅰ・Ⅱ(各1単位)
組織・人的資源管理(2単位)
地域資源国際事業化特論(2単位)
知的財産マネジメント(2単位)
有機電子デバイス特論(1単位)
設計・計測技術特論(2単位)
品質管理技術特論(2単位)
国際契約論(2単位)
国際アライアンス(2単位)など
【ビジネス日本語・日本ビジネス】
日本で就業・学習するうえで必要となる日本語力、日本語でのコミュニケーション力を磨くために、ビジネス日本語科目を開講しています。授業では、社会人基礎力(前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力)を身につけるため、講義形式だけでなく、協働作業形式でも行います。
□ ビジネス日本語Ⅰ(2単位)
キャリアに関する知識を学び、自己の進路と能力形成を考えます。またビジネス場面における敬語・待遇表現・ビジネスライティングの習得を目指します。
□ ビジネス日本語Ⅱ(4単位)
旧ビジネス日本語Ⅱ・Ⅲを再編した科目で、日本の就職に必要な活動に関する表現を学び、実際の場面での運用力の養成を目指します。
□ ビジネス日本語Ⅲ(2単位)
旧ビジネス日本語Ⅳを再編した科目で、ビジネス日本語能力テストのJ1合格を目指し、対人関係やビジネス場面を意識した日本語表現やストラテジー、およびその運用能力を育成します。
以上の計8単位(Ⅱ必修、ⅠとⅢは選択必修で、いずれかの科目の単位修得が義務)が日本語としての正規開講科目となります。他に本学では、日本語基礎集中(Ⅰ・Ⅱ)(単位なし)を開講し、ビジネス日本語のレベルに達しない留学生向けに集中で基礎固めを行っています。「話す・聞く・読む・書く」の4つの技能を総合的にレベルアップさせ、特に日本人とのコミュニケーションにおいて話し相手と場面によって適切に表現を使い分ける能力を身につけています。日本語上級(単位なし)では、特に上級の日本語力を持つ学生向けのビジネス日本語レベルアップを行っています。
アカデミックジャパニーズについても習得も促しており、基本的に本コースの留学生全員が、修士論文を日本語で書くように指導しています。半数以上の修了生は、学会誌等に日本語で論文を投稿し、これまでに発行・出版されています。
この他、日本の社会や文化を理解することを目的にした科目と、日本ビジネスに関する科目を開講しています。
□ 日本事情・文化論(2単位)
日本の文化、習慣、地理、歴史、伝統、価値観などを学ぶとともに、日本の経済・社会事情などを体系的に学びます。学習ではグループディスカッションなども導入し、学生が主体的に日本を理解できるような形で学びます。授業では本コースが開発したe-learning教材も活用しています。
□ 日本ビジネス(2単位)
日本ビジネスの基礎となる根幹的な理論や考え方を学びつつ、これからのグローバルな時代を切り開くマネジメントというものを学びます。また多国籍企業やダイバーシティマネジメントについても学習します。
□ 地域企業国際経営論(2単位)
日本ビジネスⅡとⅢを再編した科目で、日本企業の国際競争力の源泉である「ものづくり力」の意義について、マネジメントの学史の位置づけのなかから学びます。また各種統計やデータや実例を基に、地域企業にとってのグローバル化と海外展開の方法を理解します。
これらの科目と関連させて、留学生は山形県内にある製造業の工場や今後、発展が期待される福祉分野の施設などを見学するなどの新しい取り組みも開始しています。
【インターンシップ】
インターンシップについては、これまでと同様に2単位科目として開講しています。約3週間の実習を、山形県内企業において実施しています。実習にかかる交通費や宿泊費は、山形県から支援を受けることができる制度も設けています。インターンシップでは、留学生に対する企業による教育に加えて、企業にメリットのある実習内容を構築するなどの工夫も講じています。インターンシップは事前・事中・事後の大学側による指導と、企業側による実習中の指導、およびインターンの受け入れ担当者を招いた形での発表会で構成され、企業と大学の双方の評価をもって成績評価がなされます。
【就職支援】
留学生に対する就職支援を強化することを目的に、自立化後に新たにキャリア開発(2単位)科目を新規開講しました。この科目では経験が豊富な実務者を講師として招聘し、日本企業への就職に関するガイダンス、企業分析、ES(エントリーシート)や履歴書の書き方、マナーや接遇、面接の受け方、SPI対策などを、留学生の個別性にも配慮しながら教育しています。また専攻教員が留学生ひとりひとりの就職活動の進捗管理を行い、個別相談を行える体制を構築しています。これらの取り組みにより、本専攻を修了した留学生全員が日本企業に就職しています。
山形県とは、留学生のための就職説明会を共同で毎年開催しています。この説明会は、留学生を採用したい県内企業に呼び掛けて参加を募るもので年々、参加企業も増えています。説明会では、留学生OBによる就職体験談や日本企業で働く意義を話してもらう機会なども設けています。
【奨学金】
奨学金については、山形県、米沢市、社団法人米沢工業会(山形大学工学部OB会)、コンソーシアムからの出資で基金を設け、「もっとみらいコンソーシアム奨学金」を留学生に提供しています。奨学金は月額5万円(年額60万円)で、年間7名~8名に提供しています(コンソーシアムで希望理由や研究計画などを総合的に選考のうえで支給決定、但し修了後に県内企業へ就職することが条件)。この奨学金の規模を今後も拡大する予定です。また渡日前入学制度で出願・合格した学生は、日本学生支援機構の実施する学習奨励費に申請し、選考に合格すれば、半年間(10月~翌年3月の半年間)、月額65,000円の奨学金が給付されます(これまでの支給率は100%)。
なおこのコンソーシアム奨学金以外に、希望する留学生は、一般の奨学金を受給することも可能です。専攻ではこれらの奨学金を獲得するための申請書作成および面接対策指導を、留学生の希望により行っています。山形大学では奨学金とは別に、月額約6,000円で国際交流会館(留学生寮)を提供しています。選考により、入学料や学費が減免・免除される措置などもあります。
■ 留学生、大学、企業が参加するメリット
□ 留学生
・日本企業に就職するための知識やノウハウなどを学べます。
・高い実績と豊富な経験に基づく就職支援を受けることができます。
・レベルに合わせた日本語教育を受け高い日本語能力を習得できます。
・奨学金制度が充実しています。
・日本人学生、社会人学生と一緒に学ぶことで異文化コミュニケーション能力を体得できます。
・これから求められる技術と経営に関する知識や技能を習得することができます。
□ 企業
・優秀で即戦力のある留学生を優先的に採用することができます。
・留学生を受け入れることで企業のグローバル化と国際展開力の強化を図れます。
・コンソーシアムに加入することで国際化に関する研究会や技術経営に関するコンサルティングを受けることができます。
・海外進出している現地採用社員のキャリアアップの場として社員を派遣できます。
■ 留学生、大学、企業の参加方法
□ 留学生
【対象】
本専攻への入学を希望する学生で、日本語検定3級程度の能力を有する者。また学部最終2年間の学業成績がGPA基準で2.1以上であること(ホームページに掲載している要項の出願基準を全て満たすこと)。
【参加方法】
下記の連絡窓口へ問い合わせください。
□ 企業
【対象】
もっとみらいコンソーシアムの趣旨に賛同し、参加を希望して会費を納入できる企業。
【参加方法】
下記の連絡窓口へ問い合わせください。
■ 連絡先
国立大学法人 山形大学 大学院理工学研究科 ものづくり技術経営学専攻 とうほくMITRAIコース
TEL:0238-26-3622