アジア人材資金構想

高度専門留学生育成事業 国立大学法人 広島大学

■ 4年間の事業の成果

東南アジアを中心とするアジア諸国へ進出した我が国のものづくり企業の多くが抱える最大の課題は、「日本のものづくりを理解した技術者の確保と人材育成」です。アジア諸国の大学(大学院)を卒業(終了)した現地の若者は、自らの依拠する「理論」は重視するが、「経験」や「人とのコミュニケーション」を軽視しすぐに「一人前と見られたい」と望み、直ちに高いポストを希望しがちです。
 一方、日本ではよく知られているように、卒業後、企業に勤めても、中堅として活躍するには職種にもよりますが、相当の年数(5年~10年)かかるのが普通です。これは、「日本型ものづくり」は非常に多くの人が協同で携わる作業であるため、「理論」に加え「経験」や「人とのコミュニケーション」が大きなウェイトを占めるからです。
 日本の学生は我が国の風土の中で育ち、この点を肌で感じていますが、発展途上国の学生、特に大学まで母国で育った高学歴の若者は、自分達のよって立つ「理論」についてはその重要性を重視するのに対し、「経験」や「人とのコミュニケーション」については、(現場作業者とのコミュニケーションだけでなく、他部門とのコミュニケーションについても)軽視する傾向にあると言われています。このため、発展途上国へ進出した日本企業では2つのギャップに対処する必要があります。一つは「日本側スタッフと現地高学歴技術者のギャップ」でもう一つは「現地高学歴技術者と作業者間のギャップ」です。日本でのものづくりでは第一のギャップは元々存在しないし、第二のギャップについても技術者と技能者の壁が低い(あるいは無い)ことが日本のものづくりの特徴であるといえます。
 また、発展途上国の高等教育、特に理工学系では往々にして、施設設備が高価になることから設立当初は最新鋭の機器が導入されても時間が経つと陳腐化が目立ち、勢い「理論重視」の教育が目立つ傾向にあります。理論はものづくりの基礎ですが、理論だけではものづくりはできません。ものづくり技術者に課せられる課題は「現実の問題に対し理論をどのように応用して解決するか」です。時間が許される場合は、現場に入ってOJTでゆっくりと育てることも可能ですが、留学生を対象に限られた時間で教育を行うことを考えれば、従来にはない教育プログラムが必要になります。
 このような背景から、本事業では、理論だけでなく実験・実習を組み込んだ大学院教育プログラムをベースに、企業での問題解決型インターンシップを組み合わせ、さらに将来母国で活躍できるように技術経営(MOT)の基礎を習得し、日本語コミュニケーション能力を付与する教育を実施し、我が国のものづくり企業が海外進出する際のキーパーソンとして活躍できる人材を育成することを目標として我が国と留学生の母国双方の発展のため、我が国企業への就職意識が強く、意欲のある留学生を対象に我が国のものづくり企業が進出先のアジアの国々で求める人材像である専攻分野と日本型経営を意識したものづくりができる人材を育成するプログラムとして実施してきました。
 本事業の成果としては、県内の中小企業への就職が促進されたことです。留学生は日本人学生以上に大企業・有名企業志向が強く、また、就職活動においても業界企業研究をあまりしないため母国でも有名な企業への就職を希望する傾向があります。
 本事業では、産学連携専門教育において、地域中堅中小企業の魅力を伝える講義を行いました。日本の技術力を支える中小企業の実態を説明することで留学生の中堅中小企業のイメージを変えることができました。広島県内においても世界的なシェアを持つ優良企業が多いため、座学だけではなく工場見学などを通じて実際の現場を体験することにより効果的に作用しました。
 また、1か月のインターンシップを行うことにより、実際に企業の中で働くイメージを肌で感じる教育ができたことも効果的でした。その結果県内の中堅中小企業に就職する留学生の割合も高く、企業側からのプログラムに対する評価も高かったことが本事業の自立化において、県内の企業からの多くのご支援を頂けることに繋がりました。
 自立化においては、これまで実施してきた事業のプログラムと同じ内容で留学生にも奨学金を支給することができました。

■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容

国立大学法人 広島大学

本事業の自立化については、広島県、県内企業協力の下「広島県ものづくりグローバル人財育成協議会」を設立しました。
 同協議会では、平成23年から広島県が予算措置を講じた「広島県ものづくりグローバル人財育成事業」と連携をとり、本事業を受講する留学生並びに本事業の実施を支援するための基金を募り、日本型ものづくりについてグローバルに活躍できる人材の育成促進を図る基金を設立しました。
 本事業では、各国の現地大学における優秀な留学生の掘り起こしから留学生の奨学金支給、導入日本語・ビジネス日本語教育、アジア人財資金構想にて構築した、産学連携専門教育、インターンシップの継続、県内企業への就職の仕組み作りをこれまでと同様に実施しています。

【海外リクルーティング】

本事業参加企業の要望などを踏まえて、海外協定校であるアジア地域の有力大学から募集を行っています。平成23年度においては、インド(アンナ大学)、タイ(チュラロンコン大学)、ベトナム(ハノイ工科大学)より各1名の受け入れを行いました。
 平成24年度については、インド(アンナ大学)から2名、タイ(チュラロンコーン大学)1名、中国(貴州大学)1名の受け入れを行いました。

【産学連携専門教育】
□ 日本型ものづくりPBL(2単位)

日本型ものづくりの特徴である現場主義およびKAIZENの重要性とその考え方を理解することを目標としています。特にKAIZENにおいては、理論のみではなく問題発見から問題解決・定着に至るプロセスを体得させることが重要であり、座学に加えて実際の題材を対象としたPBLを取り入れています。本授業は毎週1コマ合計15回で構成されており、前半は講義形式で日本型ものづくりの概要と改善事例を教育します。後半は、受講生が実際の改善課題に取り組むPBL形式の授業となっています。

□ 日本ビジネスとものづくり(2単位)

日本型経営の根幹となる考えおよび日本が求めるものづくり人材像を、日本の産業の発展を概観しながら理解実感させることを目標としています。事業の内容については、日本経済の歩みや日本人の職業観などの概論から企業の実例を交えた講義を行います。本授業は毎週1コマ(1.5時間)合計15回で構成されています。

【ビジネス日本語教育】
□ ビジネス日本語 入門(後期2単位)

日本の企業で活躍するために必要となる日本でのビジネスで必要となる日本語やビジネスマナーを学び、これらが使えるようになることを目標としています。

□ ビジネス日本語 実践(前期1単位)

日本のものづくりビジネスで必要となる日本語やビジネスマナー、また、製造業の現場での言葉を学び、これらが使えるようになることを目標としています。
 授業の内容については、日本の製造業で就職し活躍するために必要となる口頭日本語能力につけ、集団でのディスカッションを通じて、自分の意見の発表、他者の意見の傾聴能力を身につけます。

【インターンシップ】

ものづくり企業における高度専門技術者とは①問題点の把握ができる人、②定量的なデータの取得・整理技術を身につけている人③基礎理論を理解しそれを使うことができる人、④解決のための思考実件ができる人、⑤確認のための実験(計画立案・実施)ができる人です。
 本インターンシップにおいては、事前研修、現地研修、事後研修の3つのフェーズにより構成しており、事前研修においては、日本型ものづくりの基礎や座学による理論学習、PBLによる実践により品質改善、生産改善、問題発見、解決能力などを育成します。
 現地研修では、約4週間の問題解決型のインターンシップを行います。まずは、テーマを設定し、解決のための基本方針を策定し解決策の検討を行い、成果をとりまとめ学内にて発表を行います。
 事後研修においては、自身の研修成果の報告を行い、PDCAサイクルのCとDの部分について、研修プロセス・結果の妥当性・改善点についてグループ討議を行い、理想的な研修プロセス・成果の発表を行います。

【就職支援】

本プログラムによる留学生の就職先として日本企業、中でも留学生の出身国に進出している、あるいは進出予定の広島県内外のコンソーシアム企業への就職を支援しています。
 「広島県ものづくりグローバル人財育成協議会」のもとに活動を行う「就職支援部会」を中心に(留学生と企業両者のマッチング・留学生への個別・集団での指導)を実施しています。早期に本プログラムに受講している留学生が就職できるよう、各学生の自己分析、業界研究・企業研究、面接の練習などを実施しています。

【奨学金】

奨学金については、広島県と参加企業10社の会費から広島県と参加企業の負担を1/2づつ、10万円/月(1名あたり2年間支給)の奨学金を支給しています。

■ 留学生、大学、企業が参加するメリット

□ 留学生

・日本企業に就職するための日本企業との接点を創出。
・企業で働くための実践的な教育を受けることができる。
・奨学金の受給が可能

□ 企業

・将来の採用に向けた優秀な人材との接点の創出。
・ものづくり企業が海外進出する際のキーパーソンとして活躍できる人財との接点創出。

■ 留学生、大学、企業の参加方法

□ 留学生

【対象】
 日本企業へ就職の意志があり、広島大学へ入学意志がある留学生
【参加方法】
 下記連絡窓口へお問い合わせください。

□ 企業

【対象】
 留学生のインターンシップ受入や採用意向をもつ企業
【参加方法】
 1.「広島県ものづくりグローバル人財育成協議会」に正会員として参加(留学生の奨学金)
 2.「広島県ものづくりグローバル人財育成協議会」に賛助会員として参加(講師派遣・見学受入等)
 ※詳細は下記に連絡窓口へ問い合わせください。

■ 連絡先

国立大学法人 広島大学
TEL:082-424-3503

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