アジア人材資金構想

高度専門留学生育成事業 国立大学法人 金沢大学

■ 4年間の事業の成果

金沢大学が立地する石川県には、その歴史的特徴として、機械、金属加工業のほか、近年は大型建設機械、電子機械、IT・ソフトウエア分野等でトップシェアを有する企業があります。それらの企業は比較的に早い時期から国際化を進めており、特に近年では成長著しいアジア圏への進出が顕著で、それに伴う人材の採用・育成にも積極的に取り組んできています。
 また、北陸地方の特色として創薬分野でも伝統的な企業群があり、近年国際化を急速に進めております。加えて、北陸地方は、古くから環日本海ネットワークを形成しており中国大陸や朝鮮半島さらにはロシアとの交易が盛んな地域であり、近年高品質の労働力を前提にした高付加価値製品の国際分業による生産や流通を目指す動きも出てきています。金沢大学は、そうした地域・産業環境の中で、地元企業に留まらず全国規模の企業で活躍できる国際的な人材の育成を目指してきました。
 当プログラムの大きな成果の一つとして、大学のグローバル化、意識改革が促進されたという点が挙げられます。まず顕著な例として留学生数が急増しています。当プログラムを通じて、国際的にも金沢大学の認知度が急上昇し、大学全体の留学生数もここ数年で250名前後から500名規模まで倍増し、質的にも高い水準の学生が増えてきています。中長期的には大学の学生数約11,000名の2割約2,000名を留学生が占めるようにしたいと考えております。そのくらいの比率になれば、大学全体の教育の質がボーダーレス社会に対応したインターナショナルなものに変わっていくと考えます。
 地方に立地する国立大学は、海外からの知名度はほとんどないのが実情でした。金沢大学でもこれまでは、国際交流といっても主に教員間の研究分野での交流をベースにした協定が中心で、留学生の交流をベースにした大学間協定は数えるほどしかありませんでした。今回のプロジェクトでアジアを中心に各国の著名大学を直接訪問し、優秀な留学生を獲得、受け入れる契機となりました。この募集・広報活動により海外著名大学における金沢大学の認知度が急速に向上し、奨学金支給生への応募者の増加はもとより私費外国人留学生の応募者数も増加しております。

■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容

国立大学法人 金沢大学

当プロジェクトでは、地元企業を含む約30社がコンソーシアムへ参加していただきました。これらの企業群に関しては、自立化後もインターンシップの受け入れや産学連携教育への担い手として引き続き協力いただいています。また、自立化に当たっては、財源の問題もあり大学側で教育した留学生を採用してもらう流れ(ベルトコンベアー式)から、企業内の外国人社員を大学院に派遣する形でその高度教育によりさらにブラッシュアップする流れ(リカレント循環式)の導入をめざし、地元企業側と意見交換・調整を進めています。

【産学連携専門教育プログラム】

産学連携専門教育プログラムは、「地域企業概論」、「地域企業研究」、MOT(技術経営)コース科目から構成され、これらはインターンシップ科目である「企業技術研修」、「企業ビジネス研修」に繋がるカリキュラム体系です。「地域企業概論」では地元の有力企業から経験豊かな講師を派遣していただき、その企業の事業分野と優位性とそれを支える先端中核技術を講義してもらうことで、単なる技術論ではなく企業経営の実際を学ぶことができ、日本企業への理解が深まるばかりでなく、当該企業への興味も高まりインターンシップを希望する学生が増えるという効果も生んできました。
 今回のプロジェクトを実施して実感したことは、中国や韓国等海外の著名大学を卒業した学生であっても、日本の大学院で学ぶためには、日本の学士レベルの電気や機械など幅広い基礎的な専門知識や実習経験が不足している例が多いということです。特に当プロジェクトでは大学院の入学条件として、一定程度の日本語力を求めるために、根本となる理系の学力が手薄になっている留学生の例がありました。今後は来日時の日本語力よりは本人の専門能力や学業成績を重視した「優秀な学生」の入学を促進し、日本語力と専門の勉強の両立を図り、日本企業への橋渡しを行っていきたいと考えています。優秀な学生の方が指導教員の熱心な指導で結果としてより研究成果も上がりますし、また、日本語の習得も早いと考えます。また、卒業後に日本の会社に入った場合には、各企業にとっても本人にとってもうまくいくことが期待できます。

〈MOT科目の実施内容例〉

□ 技術マネージメント基礎論(2単位)
 経営財務・会計、企業経営、企業組織論など技術経営上必要となる基礎知識及び研究開発、プロジェクト管理上必要となる基礎的事項について学ぶ。
□ ニュービジネス創造論(2単位)
 ニュービジネスの展開に必要な知識と手法について具体的に講義する。企業経営の成功・失敗例を通しニュービジネス創造のキーポイントを解説する。
□ 地域ビジネス論(2単位)
 地域経済の仕組みの概論に触れ、地域ビジネス創出に向けた実践的な知識の習得を目指す。

【ビジネス日本語・日本ビジネス教育】

「ビジネス日本語」学習に関しては、留学生の時間的な制約へ対応することと、学習効果を高める狙いから、通常の授業期間には授業時間数を抑え、夏季・春季休業中に短期集中講座形式で実施して学習効果を上げてきました。カリキュラムには、通常の留学生向けの「総合日本語」に加え「ビジネス日本語」の科目を作り、ビジネス文章・技術報告書の作成能力、日本語によるプレゼンテーション能力、敬語等の対面型交渉力およびメール・電話等の非対面型交渉力を習得させることを目標にしていました。
 平成23年度からは、「ビジネス日本語」科目をこれまで留学生センターで行われてきた総合日本語のプログラム中の一つとして位置づけ、文系を含む全学的な講座として留学生に限定せずすべての学生に開放し継続実施しています。カリキュラムは1年半で、アジア人財資金構想で実施している内容にアジア人財日本語補講の科目をもとにし、時間を240時間から180時間に圧縮しています。講義期間中に毎週2回(2科目)行う授業(前期・後期・前期の計6科目)と、夏休みに2週間で集中的に行う授業(2科目)、全体で8科目にわけて1年半かけて実施しています。
 学生の参加状況は定員10名で募集したところ、理系の学生を中心に20名もの応募がありました。また、最近では日本人学生の参加の希望も出て、範囲の拡大も検討しています。また、地元でアジア人財OB・OGが成功体験者として後輩の授業に参加してくれています。
 実際の就職活動の様子を見ていると、日本語力が堪能であれば同等の成績や研究実績を持つ他の学生に比べてもかなり順調に就職できています。今後ともビジネス日本語教育には注力していく考えです。
□ビジネス日本語(留学生センターのビジネス日本語講座として開講)
 ビジネス日本語ⅠからⅧまですべての科目を履修し所定の成績を修めた場合に「修了証書」を発行。就職活動に役立つ一般的知識と日本語を学んだうえで、入社後に役立つビジネス日本語と社会人として必要な知識を身につけます。

【インターンシップ】

金沢大学では、インターンシップは単に企業での就業体験を行うばかりではなく、一連のカリキュラムの中に教育目標を明確にして位置付けています。参加留学生は企業概論等の産学連携カリキュラム授業を受講した後に、「企業技術研修」「企業ビジネス研修」という正規科目としてインターンシップを行う流れです。また、日本語学習のカリキュラムの中でも、コミュニケーション力の向上策として位置づけられ、他カリキュラムと連携を取りながら、準備段階からインターンシップ企業訪問、実施終了後の報告書の作成やプレゼンテーションまでを総合的に実施しています。受け入れ企業は、コンソーシアム参加の地元製造業等が主ですが、近年銀行などへも対象が広がっています。
 インターンシップ事業は、今後も内容を拡充して行っていく予定です。当プロジェクトでは、理工系の修士課程の留学生が対象でしたが、博士課程や文系の学生へも対象を広げようと計画しています。更には、海外留学等の国際経験のある日本人学生をグローバル人材インターンシップとして受け入れてもらうことも検討中です。

【就職支援】

留学生の就職支援に関しては、夏季休業中のインターンシップの前後に、就職に関するサポートを強化する体制を維持しています。また、金沢大学では理工系はコース・研究室推薦による就職が主流であり、就職できない例はほとんどありません。たとえ留学生がそのルートで就職活動を行って決まらなかった場合でも、毎年5~6月に留学生の就職活動のフォローアップを行い、個別相談と企業の紹介などを行います。今後は文系の留学生の就職支援が課題だろうと考えています。

【OBネットワーク】

ユニークな取り組みとして、アジア人財プログラムの実施を機に「留学生の同窓会組織」が結成されました。1期生のOB・OG達は、後輩を励ますために「ホームカミングデー」などの会合には、首都圏などの勤務地から駆けつけます。パナソニックやコマツ等の有名企業で活躍している先輩からの声が聞けて後輩たちも励まされています。本学としても旅費等を支援し交流の活性化に注力しています。

【奨学金】

本事業が中止になった際、選考を前倒しで進めていた関係もあり事業の中止後に来日した留学生全員に大学として奨学金を用意しました。さらに、現在3年計画で5億円の奨学金を集め10年間毎年5,000万円ずつ学生に支給するプロジェクトを進めています。
 具体的には、日本人180名の短期留学支援と留学生200名に毎月数万円ずつ奨学金を支給するというものです。今回のプロジェクトでは優秀な外国人学生に金沢大学を振り向いてもらうためには、額は小さくとも何らかの奨学金があることが重要だと実感しました。
 また、アジア人財関連ではIT系のプログラムを持つ大学が連名で国費奨学金の公募へ応募しています。さらに民間企業から個別に奨学金を支給して貰っています。奨学金企業への就職が必ずしも条件ではありませんが、結果として就職する例も出てきました。
□ 日本学生支援機構学習奨励費
 金沢大学大学院に入学した私費留学生から選考します。
 奨学生数:若干名 給付額:65,000円/月 給付期間:12か月
□ 石川県私費外国人留学生奨学金
 奨学生数:若干名 給付額:20,000円/月 給付期間:12か月
□ 奨学財団等奨学金
 財団等が金沢大学大学院に入学した私費留学生から選考します。
 奨学生数・給付額・給付期間:財団により異なります。 
□ 金沢大学学生特別支援制度外国人留学生就学支援奨学金
 いずれの奨学金も未受給の私費留学生から選考します。
 奨学生数:若干名 給付額:30,000円/月 給付期間:12か月

■ 留学生、大学、企業が参加するメリット

□ 留学生

日本への留学を希望する目的の一つとして、日本での専門教育を学ぶほか、日本企業や日系の企業に就職を希望している者が多いということを感じました。そういう留学生にとっては、アジア圏において積極的に展開している日本企業に就職するための知識やノウハウなどを学べることは、大きな魅力です。
 さらに、高い実績と豊富な経験に基づく就職支援を受けることができることにより、ますます日本企業や日系企業への就職という将来の展望が現実味を帯びてきます。自分のレベルに合わせた日本語教育を受けることができ、企業において通用するビジネス日本語の修得など高い日本語能力を習得することで,それを企業において十分に活躍できることとなりますし、何らかの奨学金を受けることができれば、留学期間中の経済的な心配をすることなく勉学に専念できます。留学期間中に、日本人学生と一緒に学ぶことで異文化コミュニケーション能力を体得し、社会人学生や別の国からの留学生からも多くの刺激を受けることでしょう。そして、最先端の研究に関わりながら、今後求められる技術とともに経営に関する知識を習得することができるなど、留学生にとって大きなメリットがあると言えます。

□ 企業

企業にとっては優秀で即戦力の留学生を優先的に採用することができることが、一番のメリットであると言えます。海外展開に積極的な企業は留学生を受け入れることで、ますます企業のグローバル化と国際展開力の強化を図ることが可能であり、彼らは海外拠点の経営管理や発展にも資することになるでしょう。
 また、コンソーシアムに加入することで国際化に関する研究会や技術経営に関するコンサルティングを受けることができるほか、海外での現地採用社員のキャリアアップの場として社員を派遣し、大学院教育を受けることで高度人材を育成することができます。

■ 留学生、大学、企業の参加方法

□ 留学生

【対象】
 金沢大学への入学意思があり、高い日本語能力及び専門能力を有し、学士課程の学業成績が優秀であること。
【参加方法】下記の連絡窓口へ問い合わせください。

□ 企業

【対象】
 コンソーシアムの趣旨に賛同し、留学生のインターンシップ等受入れに協力可能な企業。また、留学生の採用に取り組んでおり、本事業に関わる寄附及び奨学金への協力が可能な企業。
【参加方法】
 下記の連絡窓口へ問い合わせください。

■ 連絡先

国立大学法人 金沢大学大学院 自然科学研究科
TEL:076-264-6811

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