高度専門留学生育成事業 国立大学法人 大阪大学
■ 4年間の事業の成果
本事業の目的は、高度な工学専門教育と産業界との連携による実践型教育カリキュラムを提供することにより、日本への留学を魅力あるものとし、継続的にアジアからの優秀な人財を獲得し、我が国のものづくりの産業競争力強化と企業のグローバル化に貢献する高い専門性と倫理観を持つ「アジアに拠点を置いたものづくりを展開するリーダー」の育成です。
本事業に参加する留学生の到達目標は、大阪大学大学院工学研究科を修了することから、専門技術レベルは工学研究科の博士前期課程修了の日本人学生と同等となります。
さらに、ビジネス日本語によるJ1レベル達成、長期インターンシップおよびOJE演習の受講により企業適応性や実践力を備えた人材で入社後、直ちに戦力(入社後1年後に相当)となることも到達目標としております。
本事業の最大の特徴は、知識教育だけでなく産業界が求める素養である創造性、問題設定・解決力、コミュニケーション力、自主性、リーダーシップ等を育成する実践的教育にあります。
本事業では、OJE演習、インターンシップ、寺子屋式合宿の3つを通じて企業が求める実践的な能力育成を行ってきました。
OJEとは、On the Job Educationの略称で3つの学習目的を有する独自の教育方式です。学習目的の1つは、講義のみに留まるのではなく、知識と経験を蓄積し、研究開発からビジネス展開に至るまでの過程で重要となる強い判断力・決断力の育成です。2つ目は、課題から問題点の抽出と解決策の提案までを自らの判断で遂行させることで、技術のマネジメントを具体化できる能力の育成です。3つ目は、少人数グループ(3~4名)での演習による意志決定過程スキルの習得です。
この演習は必修科目で、1年次に「OJE方式による演習1」を10月~2月の期間、2年次に先ほど説明したインターンシップ・オン・キャンパスとして「OJE方式による演習2」を4月~10月の期間、それぞれ2単位でカリキュラム化しています。 この演習の進め方は、学生を3名~4名のグループに分け、それぞれ違うテーマ課題を検討するもので、学生間で互いにJob(仕事・責任)を課し、学生主導で解決していく形式を採用しています。
留学生は、はじめはテーマが大きすぎて何から手をつけていいのかわからず右往左往しますが、条件を決めないと考えられないと気付き、序々に条件等を設定しながら課題に取り組み、課題設定→調査・問題発見→問題点分析→検討・提案→成果発表という流れで進めます。コンソーシアム企業の方にも参加いただき発表会を実施するのですが、コンソーシアム企業からは、発表・討論を通じて、積極的な傾聴力と理解力、ならびに論理的な判断力と表現力などのビジネス日本語育成効果も得られることができるとの評価も得ております。
これらの実践的教育のもと参加学生の就職率についても100%を達成することができ、採用した企業からも高い評価をいただいたことが成果だと考えています。
また、これらの実績により、事業終了以降も大学内やコンソーシアム企業のご支援・ご協力を得ながら、事業期間中と同じ仕組みで事業を継続的に実施しております。
■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容
本プログラムを受託したことを契機に、平成20年度に工学研究科に高度人材育成センターを設立とともに、その中にアジア人材教育部門が設置されました。本事業の自立化については、①大阪大学未来基金、②共同教育研究講座、③アジア人材教育研究会(仮称)の基に進めています。
留学生への経済的支援のため、大阪大学未来基金の下に「アジア人材育成支援基金」を設けて頂き、コンソーシアム企業(5社)からの奨学金の支援を得ています。
共同教育研究講座については、これまで本事業にて構築した産学連携専門教育、ビジネス日本語教育に加え今後は、日本企業に就職後の元留学生へのフォローアップ教育も実施する予定です。
また、アジア人材の育成に関する研究と情報交換を行う「アジア人材教育研究会」もスタートする予定です。
自立化後の事業については、大学と企業が連携してアジア人材育成コースを事業期間中と同じ仕組み(教育・支援・奨学金)で、平成23年度より学生の募集・教育を実施しています。平成23年度については、6名、平成24年度についても6名の学生を採用し事業を継続しています。
【産学連携専門教育】
「高度アジア人材育成コース」は実学を目指したアジア人留学生のため、技術マネジメントの系統的・俯瞰的な学習を通して、製造業での実業務に必要な技術管理者のミドル・マネジメント・スキルを涵養し、それをもって造業・参画企業に貢献することを目的としています。教材が提供する知識としては日本・企業文化を理解するための「日本型ものづくり科目」、「環境・倫理に関わる科目」、「マネジメントに関わる科目」の3つの教育カリキュラムから構成され、OJE(On the Job Education)演習Ⅰ・Ⅱ、インターンシップⅠ・Ⅱ、寺子屋式合宿教育により、実践的な教育を実施しています。
■ 環境倫理に関わる科目群
□ 環境共生技術開発の歴史と展望(選択科目2単位)
大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会から循環型社会への転換の要求が高まってきています。また、様々な分野で資源の循環的利用への取り組みが進みつつあります。本講義では資源循環システムの望ましい将来像を提示するとともに、それに向かってどのようにシステムを構築するか、バイオマス資源循環、醗酵技術を用いた資源循環技術、廃棄物の再利用等の環境共生技術の変遷を解説しながら、資源循環の今後のあり方について論じます。
□ 日本企業の経営理念と環境共生(選択科目2単位)
本講義では日本型企業における技術マネジメントについて、それらの知見を持続可能な社会構築に適応する考え方や方法を講義します。環境共生を志向した企業の経営理念と企業活動の事例から、工学知識を統合し、持続可能な社会実現に適応する能力を育成します。
□ 技術者・工学者倫理(選択科目2単位)
科学技術と社会、科学技術と人間のかかわり合いについて鋭い問題意識と深い洞察力ならびに科学技術者としての使命と社会的責任についての認識を深めることは不可欠です。技術者の倫理観に関する問題について、過去の事例を基に倫理観、企業・製造の現場で技術者の共通に認識する倫理観の重要性について論じ、工学者に必要な倫理観の育成を行います。
■ マネジメントに関わる科目群
□ 技術融合基礎論(選択科目2単位)
現在の社会が求める多様な嗜好、環境を重視した社会構築を目的に、既存の技術を融合し、新たな技術創成手法について例を基に講義します。特に、バイオ、IT、エネルギー、環境などの分野へ展開している手法を例に講義します。特に、新技術では、ナノに見られるように、人体に及ぼす問題も発生することが想像されるので、技術者としての環境問題も認識できるような能力の育成を図ります。
□ ビジネスとエンジニアリング(選択科目2単位)
新しい知価社会における技術開発・設計の在り方について、製品コンセプト、求められる機能、必要な生産方法から、そのビジネス展開に至るまで、従来の先端技術が辿った進化のプロセスと対比しながら学習します。特に、産学連携や異分野連携など、従来とは異なるパターンの技術革新の必要性・重要性についてケーススタディを交えながら講義します。
□ OJE方式による演習Ⅰ、Ⅱ(選択科目2単位)
専門的な知識の習得とスキル向上を図るため、課題の設定から問題解決の提案までを少人数グループで実施します。プレゼンテーション能力や、研究・プロジェクトの立案から問題解決まで広い視野と自己完結できる能力を養成します。
□ 日本企業におけるリーダーシップ(選択科目2単位)
ものづくり企業が求める優秀な人材とは、「ものづくりを展開できるリーダー」とされていることから、高い倫理観と共に経営戦略に基づいたものづくり拠点形成力、グローバル化に対応したマーケット情報収集とそれに基づくものづくり企画力、現地社会との共存共栄を図った企業の持続的発展方策の立案と促進などの役割が担える人材の育成を行います。また、日本の会社の社風や企業風土について学ぶことで、日本的リーダーシップの異質性や優れた点を考察し、日本企業におけるリーダー素養を育成します。
□ 日本型プロジェクトマネージメント(選択科目2単位)
日本型プロジェクトマネージメントの本質を、知識結集による創造力と組織横断によるチーム実行力と捉え、知識体系と組織運営方法を講義します。特に、生態系、市場、顧客、競争などの外部変化を意識して、新事業や新製品を生み出し、組織成長を図る戦略意図が必要となることを、事例を基に講義し、日本型プロジェクトマネージメントについての知識を習得します。
■ 日本型ものづくりに関する科目群
□ 日本ものづくり実践論(選択科目2単位)
日本の製造業を取り巻く環境は、急速な技術革新やニーズの多様化、そして市場のグローバル化と激しく変化しています。このような環境において、常に魅力的な製品を開発していくため、ものづくりプロセスにおける日本固有の強みや仕事の進め方、製造業におけるものづくりプロセスを革新するための知識、企業文化等を総合的に学習します。
□ 持続型ものづくり論(選択科目2単位)
持続型ものづくりは、既存の産業では対応できない、未来の持続型社会での競争市場において競争力を持つ産業となりえます。持続可能性を志向したものづくりは、生産効率やコストパフォーマンスが良い従来の生産管理とは異なり、環境に負荷をかけない原材料・生産工程、製品のライフサイクルを考慮した統合生産管理(TQC)を志向した技術を基になされています。企業の製品製造・生産の現場から環境に配慮した事例をもとに持続型ものづくりについて講義し、持続可能を志向する能力を育成します。
□ 技術開発の歴史(選択科目2単位)
現代における技術開発と産業革命の時代の技術開発とは本質的な違いがあります。その1つが産業革命時代の技術開発が連鎖反応のように新しい技術が1つ生まれるとそれを契機として、次々に技術が誕生するという特徴です。それに対し現代技術開発は、多くの要素技術がそれぞれ独立に向上を目指しているうちに、それらの中のいくつかが集って1つのシステム技術になり、多くの場合、いくつかのシステム技術同士の競争が生じて、やがて最終的に1つの要素技術集積が技術標準になります。本講義では典型的な技術開発の事例を取り上げ、その変遷を学習します。また、最新の技術開発の現状を技術史の観点から解説します。これにより、開発すべき技術や将来の技術予測能力の育成を図ります。
■ その他
□ コーディネーター論(選択科目2単位)
コーディネーターは、プロジェクト(経営戦略、企画策定、資金調達、意見調整、事後のケア)のマネジメント支援を的確に行わなければなりません。プロジェクトを最適な方向に導く「プロセス&プロジェクトマネージメント」能力、企業家をはじめユーザーや研究開発者との「コミュニケーション」能力、プロジェクトの成果を「評価基準」に基づいてチェック、監理する「活動のモニタリング&コントロール」能力等が求められています。本講義では、これらの活動、能力を体系的にまとめたケーススタディやグループディスカッションによって体得します。
□ ものづくりゼミナール(選択科目2単位)
ものづくり企業の経営に必要な事柄を新聞や雑誌等の記事を使用し、経営戦略においての成功事例や失敗事例なども含め、現実性を高め学習します。授業はゼミナール形式で実施しています。
【ビジネス日本語・日本ビジネス】
□ ビジネス日本語Ⅰ・Ⅱ(必須科目各2単位)
受講生には、効果的な「ビジネスに必要な日本語」の習得を目指し、日本語教育事業と共に取り組むほか、大学の長期休暇を利用し我が国のものづくり企業での「仕事の進め方」、「企業教育方法」や「社風」など、日本型ビジネスを理解するために、企業独自の文化に関する特別講義科目を開講します。
□ 寺子屋式合宿教育
我が国のものづくり企業における「仕事の進め方」、「企業教育方法」や「社風」など、日本型ビジネスを理解するために、2泊3日の寺子屋式合宿教育を開講しています。
具体的には、日本のみならず海外(特にアジア地域)からの技術者との討論、チームワークやコミュニケーション力の不足がもたらす問題点を学び、明確な目的意識の涵養と社会人基礎力の向上を図っています。
【インターンシップ】
インターンシップⅠ・Ⅱ(必須科目各1単位)
企業での仕事の進め方を理解するには、講義以外に可能な限り長期間のインターンシップが望まれます。そのため、大学院修了までの2年間に1ヶ月程度のインターンシップを2回実施します。
1回目は各企業でのインターンシップ、2回目は大学内で実施するオンキャンパスインターンシップの方式を採用しています。
インターンシップでは、単なる実技の習得ではなく、企業での取り組み方を学ばせるように、カリキュラムを作成します。また、企業と学生のマッチングを図るために、連携教員によるガイダンスを実施すると共に終了後、学内でインターンシップ報告会を開催し、習熟度を評価し、本人の次回のインターンシップに反映させます。
【就職支援】
□ 企業戦略説明会
日本ビジネス事業教育を兼ねて企業の事業戦略の構築と日本企業の理解を深める目的で企業戦略説明会を実施しています。また、学生が企業をよく理解することが重要であることから求める人材像や企業の技術戦略などについて説明会を実施しています。
企業戦略説明会には、コンソーシアム企業の人事、技術責任者を招聘して実施しています。
第1回目は各社から説明と質疑応答を行います。説明会終了後、企業と学生の交流会も開催し、企業の技術マネージャや人事担当者と学生の間で、企業が求める人材や企業での処遇などについて幅広く情報を交流します。
第2回目の企業戦略説明会は、コンソーシアム企業のテーブルを学生が順次巡回する面談形式で行います。
□ キャリアカウンセリング
企業出身の特任教員による留学生面談やカウンセリングによる個別の就職支援を行っています。
■ 留学生、大学、企業が参加するメリット
□ 留学生
・日本企業に就職するための知識とノウハウの習得
・日本企業に就業後ソフトランディングするための教養とスキルの習得
・国費奨学金と同等の奨学金が受給可能
□ 企業
・インターンシップや合同企業説明会による優秀な留学生との接点の創出
・インターンシップを契機に産学共同研究の促進
■ 留学生、大学、企業の参加方法
□ 留学生
【対象】
大阪大学工学研究科に進学を予定する外国人留学生(対象専門分野:ビジネスエンジニアリング、物質生命工学、生物工学、分子創成化学、物質機能化学、精密科学、応用物理学、知能・機能創成工学、機械工学、マテリアル科学、生産科学、システム・制御・電力工学、先進電磁エネルギー工学、情報通信工学、量子電子デバイス工学、環境・エネルギー工学、船舶海洋工学、社会基盤工学、建築工学)
【参加方法】
高度アジア人材育成プログラム(ビジネスエンジニアリング専攻)博士前期課程に入学
※詳細は下記に連絡窓口へ問い合わせください。
□ 企業
【対象】
留学生のインターンシップ受入や採用意向をもつ企業
【参加方法】コンソーシアム企業としての参加(教育支援・留学生支援)
※詳細は下記の連絡窓口へ問い合わせください。
■ 連絡先
国立大学法人 大阪大学 工学研究科 高度人材教育センター
TEL:06-6879-7818
E-mail:info@cacd.eng.osaka-u.ac.jp