高度専門留学生育成事業 国立大学法人 京都大学
■ 5年間の事業の成果
教育の国際化では,いまや全世界で250万人を越える留学生が自分の国を離れて学んでいると言われ、留学や海外研修が優れた教育実現のために重要な要素となってきています。このような教育のグローバリゼーションが進む中で、世界各国から優秀な学生を留学生として呼び込むためには、京都大学工学研究科で進行中の先端的な研究を広く世界に向けて発信し、魅力ある教育プログラムを立案して広報していく必要があります。そして留学生に対しては、アドミッション・渡日のための支援や日本語教育を充実させ、日本人学生との共学の場を通して日本の文化についても学ぶ機会や、修了後に日本企業を含め世界の舞台で活躍できるキャリアパスを提供していく必要があります。
これまでの京都大学は、留学生に対して専門知識を授け、母国に戻った後に大学の教員になるというルートを用意できるというところに強みがあったのですが、本事業を通じて就職を視野に入れた留学生教育を行うことで、これまでのリクルーティング、インターンシップ、就職支援においての課題も見えてきました。また、日本語教育についても、これまでは研究室の教員とのコミュニケーション能力レベルを教育目標としてきましたが、日本企業への就職を見据えると、もう一段高いレベルでの教育が必要となります。本事業では、これらの課題に対して世界の科学技術をけん引する高度な創造力と問題発掘力、企画力、実践力、日本語能力を有し、産業界における専門家あるいはリーダーとして活躍できる工学人を育成することを教育目標とし本事業を進めてきました。
当事業の5年間の成果として、もっとも大きかったのが自立化を視野に入れ、平成23年度にグローバルリーダーシップ工学研究推進センター(GL教育センター)の体制が、専任教員を配置すると共に事務担当体制を整備する等強化されたことです。強化されたGL教育センターは、共通教育支援の対象を工学部共通科目に拡大すると共に、外部競争資金を得て実施された有期教育プログラムのGood Practiceを経常プログラムに継承する等の新規共通科目の企画・提案、留学生支援及び日本人学生の留学支援等の国際交流推進、工学部・工学研究科における教育研究活動の収集・分析等の役割を担い、これまで担当教員が行っていた、留学生のフォローを大学内で組織化することが可能となりました。
特に留学生の就職支援については、当事業において受講者の日本・日系企業への就職率は100%という成果を基に蓄積した知見やノウハウを生かし、キャリアアドバイザーをGL教育センターに任用したことで今後の工学院全体の留学生就職支援について寄与するものと期待をしています。
また、産学連携専門教育についても当事業にて開発したプログラムを「工学研究科共通型授業科目」として、グローバルリーダーとして活躍する上で必要になる幅広い識見を養成する科目として開講しています。
本事業を実施するに当たり参加企業や「京大工学桂会」を通じた情報収集により、産業界のニーズを教育カリキュラムに反映しています。産業界からは、国際コミュニケーション能力や英語及び日本語でのプレゼンテーション能力の向上が強く求められていることから、本事業では、従来の座学での講義に加えグループワーク、プレゼンテーション、ディスカッションを主体とした科目を設置するとともに、実践の場として産学連携研究型インターンシップを実施し、自立化後も英語でのグループワークを中心とした科目の開発などを行っています。
■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容
自立化後の運営体制は、工学研究科に設置したグローバルリーダーシップ工学研究推進センター(GL教育センター)が中心となり、アジア人財資金構想で構築した産学連携専門教育プログラムや実践を学ぶ産学連携研究型インターンシップを中心に、対象を国費及び私費の留学生、日本人学生に拡充してカリキュラムの開放を行い、また、自立化後にリーダーシップとコミュニケーション能力を育成するための新科目「プロジェクト演習のためのリーダーシップとコミュニケーション」、「インターエンジニアリングプロジェクト演習」を新たに開講し、国際的にリーダーとして活躍するための幅広い素養を備えたグローバル人材育成のための教育を推進しています。
また、ビジネス日本語教育についても国際交流センターの協力のもと、桂キャンパスのみならず吉田キャンパスにおいても開講し、日本企業に就職を希望する多くの留学生の支援を行っています。
【産学連携専門教育】
□ 現代科学技術の巨人セミナー「知のひらめき」(2単位)
幅広い領域を横断する工学においてきわめて優れた実績を有し、国際的リーダーとしても活躍中の学内外、特に産業界からの講師による講演とパネル討論を実施しています。各分野の先端領域について解説するとともに、現代社会の諸問題に対して科学技術が果たすべき役割について、高い視点から論じます。
□ 科学技術国際コミュニケーション演習 英語科目(1単位)
産業界における実践を念頭に置いた、実践的なプレゼンテーション及びディスカッション手法を習得し、コミュニケーション能力や提案力の涵養を図ります。特に、あるテーマについて基礎知識・基礎データを踏まえた上で、具体的な工学・技術の事例を題材として、異文化・異分野からの見方・考え方、技術についての説明責任・技術倫理について討論します。受講生が国際舞台で活躍することを念頭において、日本語・英語双方で演習を実施します。講義形式の演習にとどまらず、留学生がインターンシップや研究活動等で直面する場面での実践的な訓練を行い、求める能力の飛躍的向上を図ります。
□ 先端マテリアルサイエンス通論 英語科目(2単位)
最近の材料科学の変遷を紹介するために、バイオ素材、原子材料、金属材料、天然素材について、その概要を講述します。併せて素材分析の基礎とマテリアルサイエンスの将来の展望についても講述します。
□ 新工業素材特論 英語科目(2単位)
工学の色々な分野で考究されている新素材について紹介するとともに、その実用化あるいはさらなる新素材開発へ向けての問題について考究しようとするものです。このために、材料の素材特性、電気電子工学分野や機械工学分野での新素材、天然素材としての地球資源とその特性、並びに、素材開発手法に関する基礎について講述します。
□ 新環境工学特論Ⅰ及びⅡ 英語科目(各2単位)
特論Ⅰでは水環境に関わる環境工学諸問題について、特論Ⅱでは大気・廃棄物に関わる環境工学諸問題について、本科目ではその基礎知識・最新技術・地域性と適用性を、英語により討議します。この授業の中では、清華大学及びマラヤ大学の教員・大学院生との遠隔ラーニングも実施し、その講義・総合討論等を通じて、環境分野における英語力・国際性の向上も目的としています。
□ 工学と経済(2単位)
研究開発・製品開発において工学的なプロジェクトを立案・遂行するために必要となる経済学的手法の基本を学びます。さらに、少人数グループで行うブレインストーミング形式もしくはラボ形式の演習では、論理的思考だけでなく、英語によるコミュニケーション能力も養い、エクセルを利用したさまざまな定量的解析を実際に行います。
□ プロジェクト演習のためのリーダーシップとコミュニケーション 英語科目(前期1単位)
博士後期課程大学院生が、プロジェクト演習を実施するために必要なプロジェクトのマネジメント手法、様々な国から集まったメンバーとのコミュニケーション能力などについて、講義とケーススタディを通じて身に付けることを目的としています。
□ インターエンジニアリングプロジェクト演習 英語科目(後期1単位)
プロジェクト演習のためのリーダーシップとコミュニケーションで学んだ各種マネジメント法・グループリーディング法・英語による国際コミュニケーション能力などを応用して、各チームで工学プロジェクトを立案し、実施するシミュレーションを行います。本講義では集中的なグループワーク(6週間)、およびその進捗状況を確認するため教員を交えて2回程度の討論会も行います。
□ 自習教材
一般的な金融の知識や、企業買収などの事例を含む企業・技術を巡る環境の変化等までを幅広く講述することで、起業家・企業人として自立に必要な一般知識の習得とともに「起業」の代表的な事例として「シリコンバレーの成り立ち」の検証・評価を行う事で、「起業」や「自立」に向けての環境の評価を行うところまでを具体的な最近の事例の解説を交えながら講義する「アントレプレナー概論」や「日本文化と工学」、「京都の科学技術史」など自習教材やオンライン教材として提供しています。
【ビジネス日本語教育】
吉田キャンパス・桂キャンパスにて実施しています。
桂キャンパスにおいては単位化もされており、吉田キャンパスについては、国際交流センター科目として開講しています。
■桂キャンパス 「ビジネス日本語講座Ⅰ・II」(各全15回 2単位)
■吉田キャンパス「国際交流センター ビジネス日本語講座」(前期 14回 後期14回)
ビジネス会話とビジネス文書作成の2つの講義があり、それぞれ就職準備編と社内実践編に分かれています。
□ 「ビジネス会話」
就職準備編では、就職活動の場面(電話応対、面接、ディスカッションなど)において、適切な日本語とマナーで会話ができる能力及び、就職活動の際に必要とされるビジネススタイルのプレゼンテーション技術(パワーポイントの作成方法、話し方)を身につけることを到達目標としています。
社内実践編については、就業後に必要とされる会話技術(複雑なことを簡潔にまとめて話す技術、グループで話をする技術など)、ビジネスにおいて評価されるプレゼンテーション技術を身につけることを到達目標としています。
授業の進め方については、毎回の授業でテーマを設定し、日本語表現やその他の知識を学んだ上で実践的な会話練習を行います。また、会話練習では、各受講生の日本語とマナーのチェックを行います。
さらにプレゼンテーションの学習では、受講生の研究内容をテーマに、パワーポイントの作成および添削とプレゼンテーションのチェック(日本語、発表技術のチェック)を行います。
□ 「ビジネス文書作成」
就職準備編では、就職活動に必要な文書(メール、メモ、履歴書、エントリーシート、送付状、礼状など)を効果的に書く技術及び、日本の企業や社会についての一般的な知識を身につけることを到達目標としています。
社内実践編では、社会人に必要とされるビジネス文書(メール、レター、各種社内文書)を状況に合った日本語、書式で作成する技術を身につける。また、時事問題についての一般的な知識を身につけることを到達目標としています。
授業の進め方については、毎回の授業で一つのタイプのビジネス文書を提示し、その用途、書式、適切な日本語表現について解説した上で、文書作成の実践練習を行います。また、ビジネスに関する資料の内容をビジネススタイルの文書にまとめる練習も行います。
【インターンシップ】
□ 産学連携研究型インターンシップ (単位数は各専攻により異なる)
プログラム参加企業と京都大学大学院工学研究科の間で事前に協議し研究課題を決定するとともに、実施に必要な事項を定めた協定書を締結したのち、対象大学院生を受入企業・機関に一定期間派遣して産学連携研究型インターンシップ活動を協働実施する。キャリアアドバイザーおよびプログラム参加企業担当者の指導に基づき、対象留学生自身が主体となって研究企画の立案や実施計画の策定、遂行を行うことにより、産業界での活躍に求められる能力を効果的に涵養します。
【就職支援】
□ キャリアアドバイザーの設置
アジア人財資金構想で活躍したキャリアアドバイザーを、継続してGL教育センターにて設置し、留学生のインターンシップ、就職活動の支援等キャリア指導を実施しています。
□ 留学生向け会社説明会(GL OB、GL学生、企業 交流会)
アジア人財資金構想修了生と修了生の就職先企業を招聘し12月に留学生向け会社説明会の開催を予定しています。
【OBネットワーク事業】
□ 交流会(GL学生交流会)
アジア人財資金構想修了生と在校生の相互の交流を促進させることを目的として実施しています。活動内容としては、本年度は3回(5月、6月、12月(予定))実施し、各回約2時間程度の情報交換、交流を行っており、在校生への効果としてはキャリアサポート、就職支援、将来の人脈形成に役立つとともに、大学としても修了生と永続的な接点の創出により就職先企業や修了生の母国とのネットワーク形成に役立っています。
また、今後は電子的なOBネットワークの構築も視野に入れ修了生のネットワーク構築を進めていたいと考えています。
■ 留学生、大学、企業が参加するメリット
□ 留学生
・日本企業に就職するためのビジネス日本語能力を習得
・日本企業に就職するための知識・ノウハウが身に付くとともに必要な日本語能力の習得
・国際的にリーダーとして活躍するための幅広い素養とコミュニケーション能力の習得
□ 企業
・インターンシップや合同企業説明会による優秀な留学生との接点の創出
・インターンシップを契機に産学共同研究の促進
■ 留学生、大学、企業の参加方法
□ 留学生
【参加方法】
産学連携専門教育及びビジネス日本語教育、インターンシップ科目の履修
就職支援については、キャリアカウンセリングの受付
□ 企業
【対象】
留学生のインターンシップ受入や採用意向をもつ企業
【参加方法】
①留学生インターンシップの受け入れ
③留学生の採用
④本事業に関わる寄附及び奨学金への協力
※詳細は下記の連絡窓口へ問い合わせください。
■ 連絡先
国立大学法人 京都大学大学院工学研究科 GL教育センター
TEL:075-383-2048