アジア人材資金構想

高度専門留学生育成事業 国立大学法人 香川大学

■ 4年間の事業の成果

日本国内での食料自給率は現在約40%であり、海外から大量に輸入される食品の安全性の確保は、市民生活に密接に関係しており社会の関心も高い分野です。海外から輸入される食品は、当初新鮮野菜などの原材料が主でしたが、その後、凍結野菜の輸入、特に1997年頃を境に加工を施した調理冷凍食品の輸入が増加し、安全性の確保のためには素材ばかりではなく加工プロセスも網羅したトータルとしての安全性の確保が課題となっています。香川県は調理用冷凍食品生産量並びに冷凍食品生産額が日本一であり、安全性確保のノウハウも蓄積されております。また香川大学では1970年代から食品学科が創設され、地域の食品産業界の人材育成に貢献してきました。
 香川県は2010年4月「かがわ次世代ものづくり産業振興プラン」という平成22年度から26年度まで5カ年計画を策定しました。このプランは、本県の強みである「ものづくり基盤技術産業」及び「食品産業」の2分野を重点取組み分野とし地場産業の振興を目指すものです。特に「食品産業」分野は県の指定する地場産業29業種中10業種と3分の1を占め、特に冷凍食品産業が多く、日本冷凍食品協会員事業所では、工場あたりの生産量も全国平均を上回り、規模の大きい事業所が多い特徴があります。
 さらに、食品産業は日本人の食を守る観点から国内での販売を主力にしてきましたが、今後は、成長著しい中国を含むBRICs25億人、更にイスラム文化圏17億人等をターゲットにした海外市場の開拓が課題となっています。
 このような背景のなか、平成21年から平成23年度まで香川大学大学院農学研究科は、経済産業省と文部科学省共管の「アジア人財資金構想プロジェクト」に「日本の食の安全」を課題として高度専門留学生育成事業に参加し、食品産業界との産学連携プログラムとしてスタートしました。
 4年間の成果としては、これまで国際交流実績のある大学に加え、インドネシア ガジャマダ大学、タイ チュラロンコン大学、米国 カリフォルニア大学など食品分野で世界的に著名な主要大学と新たな協定を締結し人的交流が加速し、大学のグローバル化が一気に促進できました。これにより日本の食品産業の海外進出が進む主要な国の主要な大学から、優秀な学生を受け入れる環境整備が構築できました。タイの例では、本学はカセサート大学やチェンマイ大学などタイの主要な大学と交流が深いためタイからの留学生が比較的多く、また食品関連企業もタイへの進出が進み多く知名度があり、本プログラムは瞬く間にタイの学生の認知が広まり、毎年優秀な参加希望者が殺到しております。
 一方、新たに始まったJASSO(独立行政法人日本学生支援機構)のSS(短期交流)プログラムを活用し、交流協定校から15名程度の留学生を、本事業で開発した食品安全プログラムの短期コースに受け入れ研修を実施しました。その結果研修者の中から帰国後本プログラムへ参加を希望するものが出る(2012年4名入学)など、新しいリクルートのルート開拓も進んでいます。
 自立化を進めるにあたり、全学的な支援を得ました。特にインターナショナルオフィスより、当プログラムの留学生への日本語教育への実施、奨学金制度運営面での協力など多大な支援をいただき、それらは今後も継続されます。
 産学連携専門教育については、食品科学コースの本プログラム関連教員の支援により継続されています。留学生の受け入れ担当教員も6教員となりました。農学研究科全体として本プログラムは支援され、維持拡大しています。

■ 自立化後のコンソーシアムの取組内容

国立大学法人 香川大学

自立化後の運営体制は、上図の通りです。「日本の食の安全」コンソーシアム会議をコンソーシアム企業と大学、四国経済産業局とで形成し、学長、インターナショナルオフィスがこれをサポートする、これまでと同様の形態を今後も維持していきます。
 コンソーシアム会議では、教育体制として、日本語教育にはインターナショナルオフィス教員が関わり、専門教育には工学研究科、経済学研究科、地域マネージメント研究科およびコンソーシアム企業が関わることを明確にしました。運営は、「日本の食の安全」留学生特別コース推進委員会を設置し、委員長、副委員長、国際教育委員、日本語教育委員、インターンシップ委員、就職支援委員を配置しました。また、同委員会から上がる教育上の諸問題(入試、カリキュラム、学生支援、海外交流)に関しては、農学研究科にある関連委員会の審議に諮り、研究科審議•了承の形をとるプロセスを明確にしました。
 さらに寄付や奨学金給付を維持拡大してゆくために、民間の財団、JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)、香川県等に対し、農学研究科教員はじめ学内教職員が一丸となってプログラムの成果のPRや請願行動をする体制を確立しました。奨学金は寄附金の形で、大学学長のもと、農学研究科で事務が管理しています。奨学金に充てる寄附金の他に、学生支援にも充てることができる賛助金も1口5万円にし、地域食品産業界の支援が得やすいように本事業内容を紹介するパンフレットを作成しました。本年度は、四国内の食品企業に広く参加を呼びかけることができ、参加企業は年々増加傾向にあります。

【産学連携専門教育】
□ 課題解決型教育科目(1単位)

食品機能化学特論、食品物理化学特論、食品微生物利用学特論、食品衛生学特論、食品機能開発学特論、食品機能生理学特論の中から選択でき、指導教員の科目の他、関連教員の最新の研究内容を食品の機能性研究として履修します。
 講義は90分で7回の講義を履修し、1単位取得ができるようにカリキュラムの改革を行い、企業の夏期研修や企業からの派遣者教育(リカレント教育)など短期間で受講できるようにし、短期訪問者にも単位認定が容易になりました。

□ 冷凍食品学特論(2単位、集中講義)

食の安全教育に関連する専門科目の1つであり、味の素冷凍食品株式会社、株式会社ニチレイフーズの協力を得て、最新の「冷凍食品学特論」を短期集中型講義として実施しています。特に、最近注目されている冷凍食品の最大氷結晶生成帯に関して実習も交えながら講義を行い、多面的な理解を図るなど魅力ある講義となっています。

□ 食品保蔵学特論(1単位、定時開講)

食品添加物製造業界の企業経営者から直接食品の安全性を確保するため、実践的に化学的、物理的手段を学ぶことができます。

□ 食品包装学特論(1単位、集中講義)

包装業界の大手企業管理職を講師に招き、最先端の機能性フィルムの総論と各論を広く学び、微生物汚染を回避する物理的手法、原理を学ぶことができます。

□ 食品品質管理工学(1単位、定時開講)

食品機械工学の観点から、食品製造工程の自動化に必要な知識を工学研究科の教員による講義によりわかりやすく解説します。

□ 食品関係法規(2単位、定時開講)

香川県健康福祉課の職員から日本の食品産業界で活躍するにあたり必要となる法規について、しっかり理解できるようにわかりやすく解説します。
 さらに、食品企業のリーダー養成を目的とする講義として食品業界の経営戦略が学べるカリキュラムとして、経済学研究科、地域マネージメント研究科の協力を得て、以下の3科目を継続配置しています。

□ 食品産業経営戦略論(1単位、定時開講)

修士論文を作成する課題に関連させ、ターゲットとする技術や得られる成果に基づく、マーケティング手法を学びます。

□ 食品リスク管理経済評価論(1単位、定時開講)

統計解析の手法を利用し、フードシステムの中で、それぞれの商品の売り上げ動向を解析する力を身につける科目を配置しています。

□ 技術経営学(MOT)(1単位、集中講義)

グローバル化する食品産業界の動きを理解し、分析する力を身につけることができます。

【ビジネス日本語•日本ビジネス】

日本語教育全般では、渡日前に日本語学習の経験の確認を行い、不足者には日本語事前学習90時間を義務化しています。さらに渡日後半年間は週3コマ、次の半年は、週2コマの日本語授業を単位外科目として義務づけ日本語能力の向上に注力しています。農学部で実施する理科系学生への初級日本語教育科目の他に、本部のある幸町キャンパスには、上級、中級、初級の日本語科目が用意され、留学生は3科目程度受講しており、日本語学習に関しては最大限の機会を与えています。学部と幸町キャンパスの日本語教師間で親密な連携体制を構築しており、個々の留学生の学習に重複や抜けがないような効率的な教育体制を組んでいます。
 両キャンパス間は15km以上離れており、留学生の負担は小さくありませんが、初学者でも2年後の修了時にはN-2かN-1レベルに達しており、現状の教育水準をいかに保持するかが今後の課題だと考えています。現在は修了要件として、BJT試験でJ2レベル以上であることを掲げており、その他、日本語能力試験、J-TEST, ビジネスJ-TESTなどに基準点を設け、基準点を越えることを修了の要件としています。また、実践的なビジネスの場での日本語の使いこなしを高めるために、正規科目として、「ビジネス日本語I」「同II」各1単位、「日本ビジネス教育I」「同II」各1単位を置いています。

□ ビジネス日本語I•同II(各1単位、定時開講)

電話応対、メール連絡、ビジネスレターの書き方、履歴書の書き方、レポートの書き方、プレゼンテーション力、食文化マナーなど多岐に亘り、就職活動や就職後に役立つスキル習得の指導をしています。

□ 日本ビジネス教育I•同II(各1単位、定時開講)

「時間厳守のルール」、「ほうれんそう(報告、連絡、相談)」「5S」ルール等、日本企業慣習の基本を講義し、インターンシップなどの機会にOJTにより指導しています。これらの講義は、食品業界の総務関係者と工場管理経験者が講師となり、食品産業での職種の理解、業務内容の詳細な情報などを提供し、当該業界への理解を深めてもらい就職志望の動機付けを高めています。

【インターンシップ】
□ インターンシップI•同II(各1単位、集中実習講義)

入学後、6ヶ月以内に課外授業として食品企業への見学会を8回程度実施します。その後、カリキュラムの中で夏期休講期間を利用したインターンシップを、コンソーシアム参加企業を中心に約1週間程度行います。インターンシップでは、中身の濃い実習になるように派遣企業を絞り、一定の滞在期間となるように配慮しています。
 本年は5社程度に絞って受け入れをお願いしました。広く多様な職場環境の存在を実習を通じ理解し、仕事のやりがいや職種の適性を確認させています。さらに、企業の就職内定後には、内定企業にて10日-15日程度のインターンシップを実施し、就職前の初任研修と位置づけています。

【就職支援】

企業のニーズ、学生のニーズ調査を実施、毎年10月に行われる新入生の入学式に合わせ、2年生の中間発表会、2年生向けの就職説明会、面談会を実施、コンソーシアム企業と学生のマッチングを開始しています。コンソーシアム企業で内定が得られない留学生については、インターナショナルオフィスにて日本人と同様なエントリーシート作成や適性試験の実施による個人個人の面接支援を受けます。
 また、当プロジェクトの就職担当者やその他大学関係者の人的ネットワークを活用した企業の求人情報の収集、就職の斡旋を行っています。平成24年度は、四国内の食品企業への回訪を行い、日本の食の安全留学生特別プログラムの説明を個別に実施するなどきめ細かいネットワーク作りと求人の掘り起しを行い、賛同いただける企業には、就職、インターンシップから賛助会費の寄付等の支援まで幅広くお願いし、参加企業の増加実績が出はじめています。

【海外リクルーティング】

自立化後は単独の海外訪問に制約があるが、主に教員の教育研究上の海外渡航に合わせ、現地訪問や希望者面談を実施し、優秀な学生のリクルート拡大に引き続き力を入れています。
 平成24年度は、一般財団法人貿易研修センター(IIST)の「国際経済産業事業」を受託し、ベトナムの国立大学や政府と打ち合わせを重ね、ベトナム政府奨学金支給による香川大学への留学の検討も含め、日越の経済界で活躍できるベトナムの高度人材育成の必要性と香川大学の役割について、共通した認識を得ることができました。ハノイ工科大学やカントー大学とは国際交流協定の打ち合わせを行い、香川大学の日本の食の安全留学生特別コースの紹介と、留学希望者5名との面談ができました。現在これらの受け入れに注力しています。
 また、JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)の実施するSS&SV(短期派遣・受け入れ)プログラムもリクルートに役立っています。これはアメリカ、インドネシア、中国、タイなど4カ国から学生を短期滞在させ、本プログラムで開発した科目等を受講し、食品の安全や伝統食品の製造技術の学習などを行うもので、終了帰国後、直接本プログラム応募し合格する学生が現れるなど、新たに優秀な留学生のリクルートのルート開拓に成功しています。

【プロジェクトマネージメント事業】

自立化のために、特に必要とするのが渡日前の奨学金です。現在日本の食品関連企業は人件費がより安い海外中国より東南アジア等に工場を新設したり、移転させるケースが多くなっています。その現地工場の責任者や現地法人の将来の上級管理職候補の人材を、優秀な留学生に求めている企業の声は年々増えています。特に、食品関連企業は今東南アジア市場を開拓できる優秀な人材を必要としています。そのため、食品企業各社から寄付の形で資金を集め、東南アジアなどの学生に重点を置いた奨学金として支給できる体制を整えてきました。寄付をしていただいた企業に、必ずしも留学生が就職するとは限りませんが、長い目で見て業界全体へ優秀な高度な専門性を備えた外国留学生がグローバル人材として就職していくという流れを作るという全体の趣旨を、企業関係者にはご理解いただいています。 また、JASSO(独立行政法人日本学生支援機構)の「渡日前学習奨励給付制度に基づく奨学金」は、当プロジェクトにとっては渡日を促す非常に効果的な奨学金になっており、今後とも活用していきたいと考えております。
 さらに、渡日前には奨学金を得られない場合でも、志が高く当プロジェクトへ参加したいという私費留学生も増えていますが、勉学に集中して取り組んでもらえるように、香川大学独自の奨学金を用意したり、学外の財団や企業奨学金などへ申し込みを行い、できる限りの経済的支援をなっています。

【奨学金】
□ 寄附金による独自奨学金

参画するコンソーシアム企業を中心に、1口50万円を「日本の食の安全」奨学金とし、そのための寄附をいただいています。目標額は400万円であり、2名の留学生が2年間月8万円の奨学金を支給しています。特に東南アジアからの留学生への奨学金として渡日前に当大学が支給決定できる貴重な制度になっています。

□ 香川大学基金の活用

2011年度から開設した大学の国際交流基金に「日本の食の安全」、「ダブルディグリー制度に基づく留学」などに、優先的に支給する制度があります。1−2名の留学生は月8万円を1年間頂ける項目があり、毎年本プログラム留学生は活用しています。

□ 民間奨学金•公益財団奨学金への申し込み

公益財団法人味の素奨学会、公益財団法人日本国際協力財団、公益財団法人ロータリー米山記念奨学会からそれぞれ厳正な審査を経て奨学金の支給を得ています。

□ JASSO 私費外国人留学生等学習奨励費給付予約制度の活用

学内の渡日前入試日程に沿って渡日前入学を許可し、経済的理由により修学が困難である私費外国人留学生に、学習奨励費の予約者として決定いただく制度があり、優秀な留学生の来日促進に寄与しています。
 奨学生数:4〜5名 給付額:月額65,000円/人 給付期間:6ヶ月(10月入学のため)

■ 留学生、大学、企業が参加するメリット

□ 留学生

・日本の大学院で、食の安全に関する専門知識の習得と修士学位が取得できます。
・日本企業に就職するための高度な日本語能力、日本ビジネスの知識が習得できます。
・日本企業で活躍するための専門知識、ノウハウ、技能を習得できます。

□ 企業

・食の安全について専門的な知識を持ち、日本語会話能力が高い留学生を獲得できます。
・留学生との交流で、文化の違いを学び、企業の国際化に役立てることができます。
・留学生や家族の有する人的ネットワークを活用し、企業の海外展開の拡大が図れます。

■ 留学生、大学、企業の参加方法

□ 留学生

【対象】
 香川大学大学院農学研究科の日本の食の安全留学生特別コースの実施する面接、書類試験、専門試験に合格したもの。主に香川大学と国際交流協定を締結する海外大学の関連する学部を卒業した学生。日本語事前学習が可能であり、学習意欲の高い学生。
【参加方法】受験の条件として以下の3つを満たすこと
 ・直近2年間のGPA3.2以上であるもの(4点満点換算)あるいは成績が上位10%である証明書類を提出できること
 ・日本企業への就職を強く希望すること
 ・入学までに日本語能力試験N3級程度を習得できること

□ 企業

【対象】
 香川大学大学院日本の食の安全留学生特別コースの運営、人材育成方針に賛同し、以下のコンソーシアムの活動に理解のある、主に冷凍食品、一般食品企業。
【参加方法】
 ・留学生のインターンシップの受け入れ
 ・留学生の採用
 ・企業内外国人材の当プログラムへの参加(リカレント教育)
 ・内定後入社前研修等の教育への協力
 ・賛助金や産学連携プログラムへの講師の派遣等へ協力
 ※詳細は下記の連絡窓口へ問い合わせください。

■ 連絡先

国立大学法人 香川大学農学研究科「日本の食の安全留学生特別コース」推進委員会
TEL:087-891-3127

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