取り組み事例紹介

国立大学法人 山形大学

■ 産学連携専門教育プログラム事業

産学連携から地域全体の発展・活性化・産業化をめざす

Q. プログラムの実施により留学生の到達目標(人材像)について教えてください。

山形県は、機械・電子分野の工業出荷額が東北でも上位で、また海外進出企業率も高く、製造業やものづくりにとても力を入れている県だと言えます。しかしながら、いままでのような特定のメーカーからの下請けを行っていくだけでは、グローバル経済が跋扈する世界では生き残れないという差し迫った課題があります。企業も海外展開をしながら現地で事業を拡大していくなかで、海外製造拠点の活動をマネジメントし、ものづくり力やグローバル力を兼ね備えた人材、或いは高度な組込システムの専門知識を有して製品の開発から販売までを担える人材の需要が高まっているのが現状です。
 そのような企業の人材ニーズを反映して、本学のプログラムでは2つの留学生の到達目標(人材像)を設定しています。1つは、日本文化と現地文化(海外)の感覚を持つグローバル力とものづくりマネジメント力を備えた人材で、海外製造拠点と日本の会社の双方における企業活動をマネジメントできる「中堅リーダー」であり、2つ目は、特に組込システム分野の高度な専門知識と共同事業等に必要なスキルを備えた人材で、国際開発プログラムで活躍するSE(システムエンジニア)を育成することを目標としています。
 また、企業の方々に留学生に求める能力を聞くと、語学力(日本語能力)よりも大事なのはコミュニケーション能力、積極性、問題解決能力と答える企業が圧倒的に多いのが実情です。技術については入社後に能力を伸ばすことができますが、コミュニケーション能力、積極性、問題解決能力、バイタリティなどは大学(院)時代に育成を希望されているようです。本学の留学生はいずれもずば抜けて優秀ではあるのですが、大学で日本語や日本文化を学ぶうちに、悪い意味で日本人化して消極的になったり、遠慮しがちになったりと、本来留学生がもつ積極性やバイタリティがなくなってしまう傾向にあるので、自分たちが元々持っている良い部分を消さないように教育することを心がけています。

Q. 産学連携専門教育プログラムの概要を教えてください。

今回、新たに産学連携において開発実施したプログラムは4つで、「組込システム概論」、「組込システム演習1・2」、「生産革新特論1・2」、「グローバルマネジメント1~4」があります。
 カリキュラムについては、座学の講義と実践的な演習を組み合わせ、企業の即戦力となりうる人材を育成する目標のもとで開発しました。
 講師につきましても、産業界で経営者、研究開発者として第一線で活躍していた経歴を持つ教員や、実際に企業の最前線で活躍する方を講師として招聘し、講義を組み立てています。

Q. 「組込システム概論」、「組込システム演習1・2」について詳しく教えてください。

まず「組込システム概論」ですが、これはどちらかというと基礎教育となります。このプログラムを受講する学生は、必ずしも理工系で機械システムを学習しているわけではなく、文系から進学する学生もいるため、入口部分である基礎教育を取り入れています。この科目の後に「組込システム演習1・2」を受講することになるので、基礎知識がないと先に進めないということになります。
 「組込システム演習1・2」については、1では組込システムが企業において実際どのような手法や方法で開発・設計され作り込まれているかを、企業の技術者による講義・演習を通じて実践的に学習します。2では実際にコンピュータボードを手作りして、ハードウェアの理解を深めるとともに、そのボードを動かすための組込ソフトを設計し、その通りに動くかを検証する一連のプロセスを通じて、組込システムの本質を学習します。この演習では、実際に工場に赴いて講義を受講し、工場の機材を用いて実習したり、企業の開発担当者が大学で講義を行うなど実学を重視しています。

Q. 「生産革新特論1・2」について詳しく教えてください。

「生産革新特論1・2」については、生産管理や品質管理といったものに近いと思います。基礎的な管理手法について講義をするとともに、実際の企業を見学したり、演習やワークショップを行うことを通じて、様々な生産システムについて学習します。
 特論2では、1に付随して必要となる、計画・品質管理・行程管理・開発管理・問題解決・理論的思考法などに関する各種技法や手法について、演習を通じて体得します。

Q. 「グローバルマネジメント1~4」について詳しく教えてください。

「グローバルマネジメント1~4」について、1では、日本の「クルマづくり企業」が、どこで生産しても世界最高水準の高規格・高品質な製品を供給できる「ものづくり」力の本質について学習します。2では景気や為替を中心とする経済分析と世界規模での資材調達や人材育成などの経営課題を学習します。3では金利や為替リスクをヘッジするデリバティブ取引などに関する財務と、配当政策や移転価格税制などのグローバルな税会計の課題について学習します。4では、企業の経営戦略、工場管理、金融、人事、会計、投資回収などを具体的なテーマごとにケーススタディ形式で学習します。我々は海外の国々でモノを販売するために、各国・各地域のニーズをどのように的確に吸い上げて、研究・開発・製造・販売部門に反映するかという、連携力、分析力、協調力、行動力を伴ったマネジメント力を重要視しています。

Q. 総合力を持った、理系と文系の良い部分を兼ね備えた人材育成も視野に入れているのでしょうか。

一般的に企業が求めている人材像で、理系と文系の双方が分かる人材が欲しいということはよく聞きますし、ある意味リベラル・アーツ的な教育だと思います。
 先ほどもお話ししたとおり、当プログラムでは、受講している学生は必ずしも理系ではなく、文系の学生も在籍していますが、理系と文系出身の学生を混合して授業を行うと、お互いに切磋琢磨、議論しながらやっていくということで良い相乗効果を生んでいます。さらに一部科目では日本人学生や社会人学生も参加しているので、様々なバックボーンを持った人材が複数の言語で議論して共同演習を行い、単に知識や技術だけでなく、コミュニケーション力や分析力、問題解決力などが全体的に底上げされていることが実感できています。このような共同演習に参加した日本人学生や社会人学生の方々は、異文化コミュニケーション能力や地域理解能力が高まり、お互いに成長できるというシナジー効果が得られているように考えています。

Q. 産学連携の成果は見え始めているのでしょうか。

本学では、地域共同研究センターとベンチャー・ビジネス・ラボラトリーが合併した国際事業化研究センターが、企業との共同研究の推進と、大学研究シーズのリエゾンなどで地域や企業に根を張ってきたこれまでの実績があり、地元企業と密着した土台を基礎にMOT専攻を作っておりますので、形式的・構造的な産学連携ではなく、実際に企業と大学が強固に補強しあう形で長年にわたって活動を行ってきました。そのためにMOT専攻の多くの教員は、実業界出身です。
 毎月のように参加する企業が増えているコンソーシアムですが、「アジア人財資金構想」がひとつのきっかけとなってイベントやセミナーなどに参加して頂いている面もあります。県内外の多くの企業の皆様から注目を頂いていることに、感謝しております。

Q. 今後の展開はどのように考えているのでしょうか。

今後は、産学連携に官を加えて、それぞれがWIN-WINの関係になるような形にコンソーシアムとアジア人財資金構想(とうほくMITRAIコース)を昇華させる予定にしています。
 具体的に大学側からはコンソーシアムに加入して頂いた企業に対し、無償講座や双方向教育を実施したり、学生の就職マッチングの場を提供したり、ものづくり・ひとづくりに関して開催される研究会などに参加して頂いています。企業側からは低額の会費を頂き、これを留学生の奨学金に充てています。
 また、コンソーシアムに参加することで企業は有償で格安の語学教育を受けることができたり、MOT所属教員による企業の技術・経営コンサルティングを受けたりできるようになります。企業派遣制度の開始も含め、日系企業の抱える課題と問題に応える形で、これからも地域企業への貢献を継続したいと考えています。
 山形大学は社会の公器として、コンソーシアム活動を通じてこれからも地域企業の発展、地域社会の活性化、産業開発に貢献します。これが本学の使命であり、アジア人財資金構想の果たすべき役割と到達点だと思っています。

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