取り組み事例紹介

国立大学法人 愛媛大学

■ インターンシップ

入念な事前教育がインターンシップの成否を決める

Q. インターンシップ事業の概要を教えて下さい。

もともと、日本人学生向けには、県内4大学(愛媛大学・松山大学・松山東雲女子大学・松山東雲短期大学)の連携による「インターンシップ連絡協議会」が、様々な側面からインターンシップをバックアップしていました。当初、留学生のインターンシップもこのルートを活用する方向で考えていたのですが、受入企業の中には事業を海外展開する方向がなかったり、そういった可能性を検討していない業種も見受けられました。一方で、留学生のインターンシップにおいては、日本人の学生とは異なるサポート体制が必要となります。様々なビジネスシーンに対応できる日本語は当然のこと、企業で通用するビジネスマナーなども事前に指導しなければなりません。
 そこで受入企業の整備については、キャリアコンサルタントと大学職員が、各企業を個別訪問し新たな受入先を開拓していったのです。その成果として、アジア人財資金構想の賛同企業による「サポート協力企業会」には、愛媛だけで現在140社が参加してくださっています。今年の目標は参加企業数を170社に増やすことです。また、留学生向けインターンシップ教育のプログラムについても、インターンシップ事前、事後を含めたキャリア教育としての位置づけのもと新たなカリキュラムを策定しました。

Q. 受入先の開拓はスムースに進みましたか。

試行錯誤の連続でした。キャリアコンサルタントと大学職員が関連業界の経験者やOB等の助言を得ながら、またほぼ飛び込み営業に近い形でも県内の企業をくまなく訪問し、受入企業の開拓を行いました。当初はご理解いただけないこともありました。特に、愛媛県は外国人研修生を多く受け入れていますから、研修生と留学生の違いを説明するところから入る必要がありました。しかし、何度か直接足を運びお話を重ねるうち、私たちもたくさんのことを学ぶことができ、企業に留学生をどう活用してもらうのがいいのかが、見えてきたのです。
 今年度は松山市との連携の糸口もつかめました。日本の行政組織でのインターンシップを希望する留学生もいますので、何度かご説明にうかがったところ、日本人学生のインターンシップは人事部で、留学生のインターンシップに関しては経済労働部で引き受けていただけることになりました。「松山観光コンベンション協会」など、観光誘致に関わる外郭団体でしたら就職の可能性も拓けます。

Q. インターンシップ受入先の開拓や交渉は何人体制で行っているのでしょう?

主には4名のキャリアコンサルタントが担当していますが、大学事務局や機構長が担当するケースもあります。本学では国際連携推進機構が主体となり、社会連携推進機構、教育・学生支援機構の3機関が共同で企業とのネットワーク作りにあたる体制を敷いています。

Q. インターンシップ事業の教育内容についてどのようなことを行っているのでしょうか。

四国地域のインターンシップにおいては、留学生のキャリア教育の一環として位置づけていますので、重要視している点は、学生にとっては貴重な時間を使わせることになるので、なかなか難しいところではありますが、一番は就職に結びつくことを狙いとしています。
 また留学生には、自分の今後のキャリアを決めるための材料にして欲しいという思いもあります。
 これは日本人向けのインターンシップでも行っている教育ですが、留学生向けに特に事前教育には力を入れています。また、将来のキャリアを見据え事前授業では、企業ニーズと留学生の資質、専攻、ニーズをマッチングさせるため、相当時間をかけて本人と話し合い、インターンシップ先を吟味します。

Q. 事前教育はどの時期に何時間くらいかけて実施されるのでしょう?

本学ではプログラム1年目の夏休みにインターンシップを実施するため、事前授業は4月から開始します。講義内容としては、ビジネスマナーの研修から、企業研究の位置づけとして企業見学や企業の方を招聘した講義、さらには、自分の将来のキャリアを考える講義等を行っています。
 その後、8月の2週間に渡る実施期間をへて、9月の末に報告会を開催しています。座学等合わせて30時間です。留学生は就職活動という日本のシステムへの備えが十分でないケースが多いため、早い段階で自己分析をすることが重要です。予め自身の方向性を定めた上でインターンシップに臨むのと、なんとなく参加するのとでは得られるものがまったく異なります。

Q. インターンシップの実施後、受入先は留学生に対してどういった感想を持っているのでしょうか。

9月の報告会には企業の方にも出席していただくのですが、おおむね反応は良好です。「日本人従業員のよい刺激になった」、あるいは「人材活用の新しい可能性に気づかされた」といったご感想をいただいています。インターンシップが企業側にも様々な発見をもたらすのでしょう。
 「サポート協力企業会」は、これまで留学生と接触した経験がない企業が多数を占めているのが実情です。海外に現地法人や事業所を構える企業も参加していますが、私たちは海外展開を想定していない企業とも真剣に対峙させていただいておりますし、企業のほうでも私たちのお願いに対して本当に熱意ある姿勢でご対応くださっています。

Q. インターンシップをきっかけに、企業が採用に対して積極的になるケースもありますか。

回を重ねるにつれ手応えを感じています。初めにお話をさせていただいた時と、インターンシップの途中モニタリング時にお話をさせていただいた時ではまるで反応が異なります。「最初は自分の業務として受け入れることにしたが、上司にも話して社内的なコンセンサスを取り付けていきたいと思う」という声をいただいたりしています。「アジア人財資金構想の学生から採用していきたい」と言ってくださっている企業も出てきています。実際にインターンシップで留学生を受け入れた企業は、留学生と接することでポテンシャルの高さを評価していただき、採用へのマインドが高まってきているのではないでしょうか?

Q. 留学生の成長ぶりはいかがですか。事前授業やインターンシップを通じて得るものは大きいと思うのですが。

留学生は、目に見えて成長していきます。会うたびに日本語も流暢になりますし、顔つきはまるで変わってきます。最初は立ち居振る舞いもおどおどしていたのが、修了式の頃には自分の感謝の気持ちを堂々と伝えることができるまでになっています。修了後にも役立つ「人とのつきあい方」を学んだのではないでしょうか。これは四国の四地域全般に言えることですが、キャリアコンサルタントと学生との距離が近いことが功を奏している面もあるかと思います。就職だけでなく生活全般の相談も親身になって受けていますから、みんな心から感謝の気持ちを表して巣立って行きます。
 また、受講生同士の交流についても、先日3期生と昼食会をしたのですが、2期生5人が全員就職できたと聞いて「私たちも頑張って就職にこぎつけたい」と励みになっている様子でした。自分の先輩が成長した姿を目の当りにして、とても勇気づけられているようです。

Q. 現状、企業との接点はインターンシップと報告会に限られるのでしょうか。

その他では、企業見学をさせていただく機会を設けています。本学では、留学生の就職支援を全学の中期計画の中に盛り込んでおり、社会連携推進機構や就職課などから、折にふれ企業側にアジア人財資金構想についてレクチャーしてもらっています。
 それ以外にも、「愛媛インドネシア友好協会」という団体の事務局を本学が担っているため、シンポジウムの開催時にお話させていただくこともあります。「愛媛インドネシア友好協会」には、様々な企業や経済団体が参加している関係上、そういったシンポジウムの場も企業の方に留学生と会っていただく貴重な機会になるのです。グローバルコミュニケーションについて留学生の話を聞くという趣旨のもと、留学生が講師として商工会議所の会議や経済同友会との交流等に出席することもあります。
 アジア人財資金構想のような事業で重要なのは、大学全体で取り組むということではないでしょうか。愛媛大学では来年度の4期生から本学で予算を組むことで、キャリアコンサルタントや教員を増やすことになっています。

Q. 四国の学生は地元の企業に就職する方が多いとうかがっています。

「四国では学生さんを地元に留めるテクニックがあるのですか?」と尋ねられたこともあります。四国の場合、キャリアコンサルタントが地元企業を紹介し、授業で地場産業の教育を行い、大学が地元企業との接点を持っています。そういったこともあって、留学生が地元志向になるのかもしれません。学内では地元との共同研究を行っていますし、地場産業を熟知しているのは地元の大学ですから、その意味でも大学がこの事業を手がけるメリットは大きいと考えられます。地元に就職したい留学生がいるということが伝われば、企業もより積極的になれると思うのです。そのためには足で稼ぐ地道な活動が必要だと強く実感しています。

Q. インターンシップの今後の目標や将来展望について教えてください。

来年度には4期生を募集します。本学で予算を確保し、教員、キャリアコンサルタント、非常勤講師を配置します。それに加え、デジタルアーカイブシステムというeラーニング環境を整備しましたので、来年度からはインターンシップの事前授業やマナー講座などの自己学習用コンテンツが利用できるようになります。
 今後の目標としては、地域との連携をさらに強めていきたいと考えています。教育の場だけでは、事業に携わる人員もネットワークも限られてしまいます。
 しかしもっとも大切なのは、これまで以上に留学生の希望に応えるにはどうすればよいかを模索し続けることだと思います。いまだ試行錯誤の途上ではありますが、国際的連携も視野に入れつつ活動したいと考えています。

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