取り組み事例紹介

国立大学法人 香川大学

■ 産学連携専門教育プログラム事業

就職後の姿をはっきりと見据えた産学連携プログラム

Q. 香川大学産学連携教育プログラムの概要を教えて下さい。

背景として「食品の安全」が問題になり、香川大学はその加工のプロセスや安全性の管理について取り組むことにしました。取り組みには大きく3つの柱があります。
 1つ目は、香川県には冷凍食品産業が集積しているため、冷凍食品学を中心とした安全な食品作りのプロセスと技術を学ぶプログラムです。これからの健康食品や高齢者食の開発、海外流通を活性化するためには、加工品の安全性を守る事が重要ですので、企業の方にも参画して頂いて、まずは香川大学の最も得意とする冷凍食品学を中心に、産業界のグローバル化に役立つ実践教育を行うことにしました。
 2つ目は、冷凍食品がどのように作られているかを考えた時、その安全性確保の基本は保蔵学、包装学であり、その教育科目を整備しました。産業界では当たり前になっている基礎的なことを、これまで大学では十分に教育してきませんでした。その反省として、今回は教育科目の充実を実践の立場から見直しました。
 3つ目は、製造プロセスを十分理解させ、最後に製造過程の安全性を評価するため、新たに「食の安全分析学」を作りました。これにより分析学、流通システムなど、基礎から実践まで広く教育できるようになりました。

Q. 冷凍食品企業が外国人材に対する求める人材像と、どのような教育をして欲しいという要望があるのでしょうか。

企業側からは、食品の安全に関して生産国と日本との連携ができる人材ニーズが求められています。
 食品の安全が経営的にも重要であることは、中国の餃子事件でも明らかになっているとおり、安全性に不安があると中国からの輸入は40%下がることが分かりました。
 教育ニーズとしては、安全な食品を作るということ、安全性を確認できる教育がまず重要で、そのうえで就職後には会社の中で技術部門での幹部になれるように、日本の企業文化を学び、日本企業に馴染みチームワークを大事にするような仕事の仕方を教育して欲しいと望まれています。
 将来は、若い日本人社員や海外の派遣社員を指導し束ねるリーダーとして期待されているようです。

Q. 企業側からどのように教育ニーズの情報を収集し、このようなプログラムを作られたのでしょうか。

企業とのコミュニケーションを重ねてビジネスを含む日本語教育や、理系の学生が苦手とする企業の経営戦略論などを加え、これまでにない学部の垣根を越えた教育を行うことが望まれていることが分かり、経済学部や語学教育系の先生に教育して頂くなど、人材育成の面でも適ったような文理総合プログラムを立案できました。
 また、企業はインターンシップに協力的に取り組んでいただけることがわかり、日本人学生にもありがちな就職企業との希望職種のミスマッチを避けること、及び教育現場の基礎知識が実践的にいかに現場で利用できるのかを体験させることができるようにしました。
 座学だけではなく、私達には教えられない実践的に学べる企業のインターンシップを1年後期や2年前期の間に約1ヵ月程度用意し、実践教育現場から基礎教育の重要性を体験させることにしました。

Q. 大学で教えている技術と民間で必要とされている技術とはどのように違うのでしょうか。

大学の教育はカリキュラムにそって行われ、非常にベーシックで、基本的な技術要素を体系的に学ぶには有益な場所だと思います。しかし、民間に於いて食品の技術を学ぶということは、新人の時の研修期間で学ぶにしても、大学と同じように体系化された受身の勉強だけではありません。
 食品の加工技術やノウハウと言うのは、仕事の中で直面する課題がありそれを解決するために、必要な技術や技を自分で調べたり先輩に尋ねて教えて頂くなど、あらゆる方面から自ら動いて取得し経験を積み上げるものです。ここが一番大きな違いです。
 実践的には食品の加工現場で苦労しながら覚えた技術というのが、長期にわたり役に立つことが多々あります。
 アジア人財資金構想プロジェクトでは、ベーシックな食品学の勉強を大学の専門が行うのと同時に、プロジェクトに参画して頂いている食品加工メーカー企業の技術者の方を招聘して、実践論の加工技術を教えて頂いて、いろいろな経験に基づいたノウハウを学生達が取得することができます。

Q. 一般の大学院のカリキュラムとアジア人財資金構想の産学連携教育プログラムの2つの位置づけはどのように整理されているのでしょうか。

一般の大学院のカリキュラムとアジア人財資金構想の産学連携教育プログラムの2つのプログラムを合わせて修士課程の必要単位としています。
 一般の学生と共通しているのは修士課程修了に必要な課題研究です。これは企業に入って技術者や研究者になっても探求力や未知のものにチャレンジしていく思考力を育てることだと思います。
 アジア人財資金構想の産学連携教育プログラムは、冷凍食品学などの専門科目は食品業界のニーズにあわせた応用科目で、知識を座学等で学ぶだけではなく、それを現場研修などで応用してもらおうというものです。これまでの大学の教育課程には無いものでした。

Q. カリキュラムにある「食品産業の経営戦略」はどういうものですか。

今までの日本人学生にも準備していなかった新しい科目であり、どの企業に就職しても理科系の学生であっても、会社の経営やマネジメントのセンスがないと国際社会では戦っていけないので、香川大学経済学部の優秀な教授陣に参加いただいて管理経営学、技術経営学、経営戦略特論を食品業界向けにアレンジし教えていただいているものです。
 香川県は食品業界が盛んであり、企業側のニーズを考えると、今は技術者として学生を取りたいが、しかし将来的には会社や工場の管理に携わることがみえてくるわけで、20年先を見据えて大学で経営的なセンスを身につけることは、リーダーとしては非常に大事であり、単なる専門技術に関する教育だけでなく総合的なオールマイティーな学生を育てることが求められていると考えています。これは日本の大学教育の技術者養成として必要なものだと考えて新たに設置しました。

Q. 「蔬菜園芸学特論」、「果樹学特論」、「畜産学特論」とはどういう位置づけなのでしょうか。

一般学生にも講義しているものの特論型のもので、食品生産の面からのその時のトピックスを理解することによって、生産技術を学び、加工、流通へと結びついていく。食の生産面での安全が十分に確保できないのではないかということでありますので、基礎科目の蔬菜園芸学、果樹学、畜産学、それぞれの特論を学生に準備しています。
 学部の学生と区別するという意味では、一通りの生産技術はある程度学んでいますが、現在、どういう事が問題なのか、これからの蔬菜園芸学、果樹学、畜産学分野の技術、知識の方向性等を学習するためのカリキュラムとなっています。

Q. どういう企業とどういう連携をされているのですか。

「冷凍食品学」では味の素冷凍食品株式会社、株式会社ニチレイフーズの研究員と、最先端の冷凍食品の製造技術、研究、素材の変化など物性を学ぶことができます。
 「保蔵学」も冷凍食品製造企業の専門家が積み上げた知識を、冷凍食品に使う保存素材とはどういうものか、どうすれば効果的な保存が出来るか、安全に食せるのかということを通じ主に学びます。
 「包装学」はレトルトパウチなどの包装技術を凸版印刷株式会社など専門研究者から学ぶことができます。
 この3つは企業の方の講義です。これら実践教育科目は、今後の企業若手研修にも役立ちます。異臭に対するクレーム対応などは、香川大学の香気分析技術や官能評価が役立っています。また、海外の連携大学と海外にある企業の3者での共同研究も模索がされています。

Q. インターンシップとの関連性は。

「冷凍食品学」はインターンシップで現場研修を行うための事前学習という位置づけなので、まず基礎をここで学び、また現場研修で実践的に学んでいくというふうに2段階で教育を行うことでより体得しやすいと考えています。また、食品業界の専門用語もインターンシップ報告書の日本語による作成により、効果的にビジネス用語や専門的な技術の学習ができるように工夫しています。

Q. 参加されている企業も増えていると聞いていますが、それはどのような点が評価されているのでしょうか。

食品業界の現状はグローバル化しなきゃいけないと言われていますが、実際は大手でもなかなかグローバル人材を受け入れた経験があまり無く、躊躇されていています。一方中小企業もやはり国内市場だけでは不安であり海外進出を考えつつも人材不足がネックで実行できないとの悩みを抱えながら、どうしていこうかと迷っておられます。
 企業の人事の方にお会いしてお話をすると、アジア人財資金構想の留学生のように「優秀な技術者で、日本語能力が高く、日本人と2年間日本で過ごして、日本企業の考え方、仕組み、そのようなことを理解してくれるグローバル人材」は探してもなかなか見つけられないと評価頂いています。
 ただ外国人材の採用数は各社数名程度ですので、当プロジェクト卒業生を毎年雇って頂くほどではないのが実情です。そこで、参加企業数を増やし裾野拡大しながら、預かった学生を全員就職させる。そのため広報活動を絶えず続けて行かなければいけないと思っています。
 また、本来入社後に自社内で研修をさせなければならなくて、時間、金銭部分に大きな負担がかかる研修が、本プログラムの学生の場合、入社前にほぼできていると評価をいただいております。当然企業に入っても研修はありますが、そこにおける理解度が日本人より進んでいるなど、大きな成果としてご評価を頂いています。
 今後とも日本の冷凍食品業界の国際化と留学生の将来の活躍のために尽力したいと思います。

Q. 今回の産学連携教育プログラムを含むアジア人財資金構想プロジェクトの成果はどういったところに現れているのでしょうか。

製造、安全、食に関する法律に関することを深く学び、それらを生かしたそれぞれの生産現場を管理しまとめるリーダーを育成していくのには、理論と現場および人的関係を学ぶことが最も効果的だと考えます。さらに、国内だけではなく、海外に進出し、トップ、管理者として海外で働ける従業員を食の安全を理解し、問題点を指摘できるようなリーダーとして養成していくというのが、このプログラムの到達目標だと考えています。
 卒業生は、即戦力になるとのご評価をいただき、海外進出している企業からの求人が多数来ています。
 また、これまで冷凍食品関連企業は、日本向けの食品を確保する事が主だったのですが、近年積極的に海外進出し海外大都市を市場としてみられるように変化して来ています。海外の市場への展開には、そこを地元とする日本を理解した留学生の人的ネットワークが有効になってきます。そういう意味では、このアジア人財資金構想プロジェクトの意味がだんだん出つつあるのではないかと実感しています。
 本プロジェクトを通じ、人材を確保するだけではなく、企業の経営戦略にも影響をあたえていると私は考えます。

Q. 今後のプロジェクトの展開はどのようにお考えですか。

事業終了後の自立化が求められており、企業としっかり連携して運営していくこと、そして信頼を得ながら留学生を派遣いただいている海外連携校から引き続き優秀な人材を提供いただけることが求められていると考えています。
 また、企業からも学生への奨学金をはじめ多くの支援を頂いておりますが、1、2期生が社会に巣立って実績を積む中でプロジェクトに対する評価をいただきたいことと、1社1社足を運んで、このプロジェクトのご理解を頂いて裾野を拡大し、就職の受け皿となる企業を一つでも増やし、毎年全員の就職に繋げていきたいというのが私の希望であります。
 一方で、大学内においてもこのプロジェクトは認知されつつあり、経済的、人的支援を頂きつつあります。
 このような産学連携によるグローバル人材育成を継続していくことが、企業からも求められていますし、大学の使命だと感じています。
 今後は留学生に加え、日本人学生もこのプロジェクトに参加させ、双方の就職が有利になるようなプログラム作りが求められているのではないかと考えています。

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