取り組み事例紹介

国立大学法人 千葉大学

■ 海外リクルーティング

高度デザイン人材を集めるリクルーティング手法

Q. 千葉大学のリクルーティングのコンセプトや手法について教えてください。

留学生のリクルーティングは基本的に大学間協定を結んでいる学校に案内を出して、協定校の中からできるだけ優秀な学生を集めようとしています。優秀な学生の選定は各大学の先生からの推薦という形で行います。その際に、日本で就職をしたいという意志を確認するように先生にはお願いしています。
 海外から優秀な学生を確保する際にネックとなるのが日本語力です。そこで本学のリクルーティングには特長として、選考段階では留学生の日本語力を問わないとアナウンスし、英語とデザインでのコミュニケーション力を受け入れの条件にしています。デザインという領域はそれをひとつの言語として扱うことができるため、それはある意味我々のアドバンテージでもあります。
 この条件であれば、日本語というハードルをなくすことができるため、欧米の大学と同様に優秀な留学生をリクルーティングできます。多くの留学志望者は、日本で学びたいのではなく海外で学びたいと考えているのです。そういった学生に最初から日本語力を求めるのは得策ではありません。この方針を立てたおかげで、シンガポールの南洋理工大学や韓国のKAISTといったトップクラスの大学から、優秀な学生たちが集まるようになりました。

Q. 授業は英語で行うのですか。

この3月(平成22年)に修了する2期生の場合、1年目の講義は基本的に英語で行いました。もちろん日本語の語学の授業もありますし、日本語で供給される専門の講義も一部ありますが、アジア人財資金構想の学生を対象とした専門の講義はすべて英語です。教員の方々と相談した結果、3期生からは前期は英語、後期は英語と日本語をミックスする形で授業を行い、少しづつ日本語にシフトしていく進め方に変えました。2年目に関してはすべて日本語で講義します。授業時の英語の使用は原則的に認めません。

Q. デザイン業界では、日本語はコミュニケーションツールとしてそれほど重視されないのでしょうか。

もちろん重要なのですが、アジア人財資金構想のプログラムでは、修了時にBJTビジネス日本語能力テストでのJ1の取得を想定したカリキュラムが組まれていますから、あえて最初は日本語力を問わないという戦略を取っているのです。留学生は日本に来て約3ヶ月後にインターンシップに参加するのですが、各企業の担当者には、その段階では日本語によるコミュニケーションは期待できないとあらかじめお伝えすることにしており、企業の方にも事情はご理解いただいています。学生の中には、卒業するまでにJ1を取得するよう薦められたり、現地の日本人スタッフとコミュニケーションできる程度の日本語力はキープするようにアドバイスされる者もいるのですが、かえってそのほうが卒業時の日本語の到達レベルの目標がクリアになるのかもしれません。
 本学のアジア人財資金構想の留学生のBJTビジネス日本語能力テストの成績ですが、約7割の学生がJ1を取得します。1年目には午前中はすべて日本語の学習にあて、週のうち2日は午後も日本語を学びますから、個人差こそあれ、卒業時にはハイレベルな日本語力を身につけることも可能です。優秀な学生の中には、日本語がゼロベースの状態からスタートしたはずなのに、いつの間にか流暢に話せるようになっている人もいて驚かされます。

Q. 企業は留学生に対してどういう印象を持っていますか。

アジア人財資金構想には優秀な学生が集まっているということが企業サイドにも浸透し始め、積極的に採用していきたいというリアクションを頂いています。現地の拠点を戦略的に担える人材や、日本企業がアジア諸国の企業とパートナーシップを提携して新事業をおこす際のハブ的人材として活かしたいとお考えの企業が多いようです。

Q. 学生はアジアで何カ国、何大学から推薦されるのでしょう。

韓国5大学、中国8大学、シンガポール1大学、インドネシアに1大学、マレーシアに2大学、タイに2大学です。当初の目論見では、千葉大に留学しているアジア人財資金構想以外の学生の比率から類推して、中国の留学生が5割を占めるだろうと推定していたのですが、現在のアジア人財資金構想の比率では中国出身者が2〜3割、韓国出身者が4〜5割です。
 韓国はサムソンやLGといった大企業を有するデザイン先進国だけに、学部で行われるエデュケーションプログラムも進んでいます。中国の留学生も個人としては優秀ですが、日本の産業界の発想にアジャストするまでに時間のかかる学生も見受けられます。ただ美しい形を考えるだけではなく、人々の生活をリアルに知った上で、何が必要なのかを考えてデザインする力を身につけなければ、日本企業への就職は容易ではありません。
 そういった考え方に初めて接した留学生の中には、「それはプランニングやマーケティングの領域ではありませんか?」と拒絶反応を示す人もいますので、10ヶ月くらいかけてじっくり軌道修正していきます。頭で理解するのと身をもって体験するのとでは違いますから、2年間大いに苦労を重ねてようやく就職先が決まる段階になって、日本のデザインの特質が理解できたと話す学生もいました。

Q. リクルーティングの一環として協定校で模擬授業を行っているそうですが、それはどのような形で実施するのですか。

英語でレクチャーするケースと、日本人学生を伴って現地へ行き1週間のワークショップを実施するケースがあります。後者の場合、日本企業の方をご案内したり現地の日本企業の方を招いたりします。
 ワークショップは中国の清華大学やシンガポールの南洋理工大学で行いました。レクチャーは中国を中心に幅広く実施しており、清華大学のほか、江南大学や浙江大学、南京芸術大学、南洋理工大学、マレーシアのサラワク大学にも参りました。実施回数は年4回程度(レクチャー2回、ワークショップ2回)です。模擬授業には多い時で150名程度の学生が参加します。主な対象者は、翌年か翌々年にアジア人財資金構想にアプライできる3年生と4年生です。

Q. 模擬授業はアジア人財資金構想がスタートする前にも行っていたのですか。

招聘されて講演する機会はありましたが、日本の学生と一緒に演習を行うスタイルは、アジア人財資金構想が始まってからです。総じて日本の学生は英語でのコミュニケーションが得意ではありませんが、ワークショップが終わる頃には現地の学生と親密になります。模擬授業の一番の目的は、日本で勉強したいと思うファン作りですから、この試みは効果的だったと思います。これにより千葉大学の名前も浸透し、ジャンプアップしたのではないでしょうか。私費で千葉大学に留学したいという学生もいるほどです。

Q. デザイン分野のリクルーティングで、ライバルになる海外の大学はどこですか。

アジア圏に対する最大のライバルはイギリス、次いで北欧です。今年の9月からレギュレーションが変わりますが、北欧の大学には留学生の授業料も無料になる教育上のメリットもあり、膨大な数のポートフォリオが送られているようです。
 しかし最初の話に戻ると、学生が留学先を選ぶ一番のポイントは、やはり英語で授業を行っているかどうかだと思います。我々のコンペティターになる大学や大学院は、どこも英語で授業を実施しています。そういった国々に比肩しうるプログラムを組まないと、優秀な人材は集まりません。日本企業はアジア圏では人気がありますから、リクルーティングにおいても日本ブランドの強みを強調することは極めて有効だと思います。

Q. 留学生は日本人学生の学習モチベーションにも影響を与えていますか。

日本人学生への影響は大きいと思います。日本人学生は就職に関して、これまである種の保護貿易の中にいられたと思うのですが、アジア人財資金構想の導入後は、もはやそんな時代ではないと彼らも思い知らされたと思います。
 そういうこともあって、去年からは留学生と日本人学生のクラスを意図的にミックスしました。一昨年はほぼ完全にクローズで留学生を指導したのですが、それだと研究室のほかの学生とコミュニケーションを取りにくいということもあったので、オープンなカリキュラムを組むことにしたのです。すると英語が一番できないのは日本人だということが明らかになり、日本人学生たちは、このままだと今の世の中に対応できないと痛感したようです。私の研究室の学生に関しては、英語力が確実に上がりました。そういった面でもアジア人財資金構想を導入する意義があると、日々実感しています。

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