取り組み事例紹介

国立大学法人 琉球大学

■ ビジネス日本語

オリジナル教材を用いたBJTビジネス日本語能力テスト対策が留学生の語学力と自信を高める

Q. ビジネス日本語の指導概要についてご説明いただけますか。

プログラム1年目は就職活動に必要な日本語力のアップにつながるカリキュラムを組んでいます。しかし、就職活動は日本語力だけではなく、会社訪問や面接をはじめ多様なコミュニケーションスキルが必要とされますから、外部から講師を招聘し、インターンシップの事前研修や就職活動における準備、面接対策などを指導していただいています。カリキュラムのうち約半分がビジネス日本語の授業で、残りの半分を就職活動に特化した技能の習得に当てています。2年目に関しても、夏前までは就職活動期間中ですから主に就職試験対策を行い、6月くらいから日本企業に入社後に必要とされるビジネス日本語のスキルアップにつながるカリキュラムを組んでいます。2年目の特色としては、BJTビジネス日本語能力テスト対策を含め多くの時間をビジネス日本語に割いています。

Q. 外部講師はどういった方面の人材に依頼されているのでしょう。

主にビジネス研修のエキスパートの方々ですが、SPIの解説書を出されている先生もお招きしています。就職活動の際には、いかに自分をアピールするかが大切ですから、自己分析の専門家にも講義をお願いしました。

Q. ビジネス日本語を指導するにあたり、当初は苦労されたところもあったのではないですか。

我々は、通常の日本語教育に関しては様々なノウハウを蓄積していますが、ビジネス日本語は未体験の領域でしたから、最初のうちはどこから手をつけていいのか把握できていませんでした。いま思えば、当プログラム開始当初に1期生を迎え入れたとき、スタートの半年間で就職試験対策をやるべきだったのですが、当時はとても就職対策関係の授業をする余裕まではありませんでした。学生たちには自分で教材を購入して訓練するように指導していたのですが、春休みに確認したところ、こちらが思うほど学習が進んでいないことが判明したため、4月から急遽、就職試験対策の学習を中心に据えたわけです。しかし4年生の春からでは入念な対策を行うことはできませんでした。そこでの反省をふまえ、2期生からは就職試験に向けてのカリキュラムを早めにスタートすることにしました。

Q. 留学生の語学力には差があると思いますが、何か対策を講じているのでしょうか。

1期生は語学力を考慮して、2つのクラスに分けて授業を行っていました。しかし、2期生からは日本語力が弱い学生をあえて別クラスに分けるといった対策は取っていません。学生同士がお互いの弱いところをカバーし合える体制で進めたほうが、良い結果が出るのではないかと考えたのです。しかしながら、3期生には、通常の授業についていけない学生も数名いますから、そういった学生には週に1時間の補講を行うことでフォローをしています。

Q. 授業スタイルとしてはどういった形式を採用されているのでしょう?

先方の副学長レベルの方との面談なども行うことでプログラムの周知に努めましたが、日本企業への関心は高いと言えます。中国、マレーシアなどでは日本企業に対する学生の好感度も目を見張るものがあります。しかし、インドでは課題があると言わざるをえません。インドでは諸外国からのリクルーティングが多く競争力が高いということを感じました。また、日本への留学を志向する学生が思いのほか多くないのです。インドのトップレベルの学生たちは、欧米の金融系企業やマネージメント企業への就職を目指していたり、あるいは博士課程を経て研究者として大成したいと考える傾向にあります。インドで訪れた3校では、いずれも共通の印象を持ちました。

Q. ビジネス日本語で使用している教材と教育する上でポイントは何でしょうか。

市販の教科書と自主作成したオリジナルのBJTビジネス日本語能力テスト対策用の教材を使用しながら教育しています。市販の教材でDVDの映像を見ながら教えられる教材は、実際のビジネスシーンにおける日本語の使用ケースを具体的にイメージできることから学生に好評です。実際のビジネスシーンに映像によって触れることにより、学生の学習への意識が変わります。学生に興味を持たせ、この学習が必要と認識させることが必要なのです。
 また、BJTビジネス日本語能力テスト対策としては、本番さながらのオリジナル模擬問題集を作成しましたが、それをただ解かせるだけでなく、なぜこの問題の答えがこうなるのか、出題の意図がどこにあるかを解説した上でディスカッションします。教える側がそこを論理的に説明できないと学生は納得できません。決まり文句だから暗記せよというやり方は日本語学習のある段階までは有効ですが、留学生の多くはそれより上のレベルに達していますから、教える側は問題分析の能力を問われることになります。

Q. 参加している留学生の日本語力はどれくらいの水準なのですか。

プログラム開始時には、BJTビジネス日本語能力テストのスコアがJ2からJ3だった学生が、最終的にはJ1が1名で7名がほぼJ1に近いJ2となりました。
 非漢字圏でJ2まで伸びた人もいました。今回就職先の決まった学生の中には、BJTビジネス日本語能力テスト対策をみっちり行ったことが自信につながった、と話していた人もいました。ビジネス日本語の学習成果の測定は学生の自信につながるとともに、BJTビジネス日本語能力テスト対策を行うことにより、結果的に必要なスキルが身に付いてくるため、BJTビジネス日本語能力テスト対策はとても重要だと考えています。

Q. 留学生がビジネス日本語を学ぶ意義はどのあたりにあるとお考えですか。

日本国内、または海外の日系企業で働きたいと考えている留学生は多いですから、ビジネス日本語の学習については、日本・日系企業の就職活動、ひいては就職後のコミュニケーション力等の育成を行うにあたり、必須のカリキュラムだと考えます。また、その学習効果により留学生の就職率が上がることで、入学者数の増加が見込めるなど、大学にとっても様々なメリットが存在するでしょう。
 企業的な視点で見ると、BJTビジネス日本語テストは日本語を武器としてグローバルなビジネス活動を行うビジネスパーソンのコミュニケーション能力を測る「ものさし」としての意味が大きいように思います。
 例えば、BJTビジネス日本語能力テストは、日本だけでなく、世界各国で実施されていますが、その中には訪日したことのない方も多いと思われます。BJTビジネス日本語能力テストの設問は、いわゆる日本でしか通用しないビジネス習慣や日本的慣行に基づくものはありません。つまり、BJTビジネス日本語能力テストを活用することによって、世界で仕事をするビジネスパーソンとしてのコミュニケーション能力が身につけられるということもできるわけです。日本人学生を指導する教員の中には、BJTビジネス日本語能力テストは日本の学生にこそ必要なのではないかと指摘する方もいらっしゃるくらいです。

Q. ビジネス日本語の講師と就職支援に係わるキャリアカウンセラーの連携は行われているのでしょうか?

月1回のミーティングで情報を共有するようにしています。本学では専属のカウンセラーが1名、3名は事務局スタッフがカウンセラーも兼ねています。平成20年度の前半までは、カウンセリングを外部委託していたため、両者が密に連携できているとは言い難い状態でした。その点を改善すべく、また23年以降の事業の自立化を見据え、学内のスタッフで取り組む体制にシフトしたわけです。そうすることで、ビジネス日本語の講師がクラス単位でのスキルアップに取り組みながら、キャリアカウンセラーがきめ細やかな個別フォローを施す体制が整ったと言えると思います。

Q. ビジネス日本語の講師の育成に関しては、どういったビジョンをお持ちですか。

ビジネス日本語の教員育成は今後の大きな課題です。教員の資質には個人差があると思います。ビジネス経験のある方がその経験を生かせるメリットはあるとは思いますが、日本語の指導という点からは、必ずしも経験者の方が指導に入りやすいというわけではありません。

Q. 1期生はすでに就職しているわけですが、企業側の感触はいかがでしょう?

これほど日本語が話せるのか、と驚かれることが多いです。2期生から事務局が就職フォローに当たっていますが、2期生の中には履歴書を見て、「本当に自分で書いたのですか」と質問された学生もいます。また、面接では面接官の質問の意図を理解する必要がありますので、いろいろな角度からの質問に答えなければならない場面で留学生は苦労するようです。そのあたりはビジネス日本語を学習した学生との比較は企業の方が一番実感しているのではないでしょうか。
 しかし、留学生が膨大な時間を費やしてしまうビジネス日本語の学習内容も、日本人ならできて当然とされることですから、教える側は彼らが一番苦心している部分を的確に把握し、足りない部分を効率よく埋めてあげないといけないと思います。
 もちろん、外国人ですから日本人と完全に同化することはできませんし、母国のカルチャーや本人のアイデンティティに起因する要素まで強引に矯正しようとすると、彼らの個性を殺してしまうことにもなりかねません。そのあたりの折り合いをつけつつ、企業側に雇いたいと思ってもらえる魅力的な高度人材を育成することが、我々に課せられた使命だと考えています。

Q. アジア人財資金構想が始まる前後で、留学生の就職支援やビジネス日本語教育の位置づけは どのように変化しましたか。

様変わりしたと言っていいくらいです。3年前までは留学生が就職課に来ても、適切な指導はほぼ難しい状況で日本人学生と同様のサポートしかできませんでしたから。日本企業に就職を希望する留学生の側でも就職後の様々なシーンで活用できる日本語を学びたいという希望が高まっている声が聞かれます。
 また、留学生だけでなく、教える側の視野も広がりました。本学には勉強熱心な教員が多くいらっしゃいます。研修に参加したり、授業をこなす中で留学生だけでなく講師サイドも徐々にスキルアップしてきたことを実感しています。
 ビジネス日本語については22年度から琉球大学において、全留学生向けに2つの講義を行うことが決定しています。1つが共通科目に単位化されたビジネス日本語を22年4月よりスタートします。
 日本語中上級を終了したレベルの学生を対象に、日本企業、あるいは日系企業に就職しようという意志を持つ学生なら、学年を問わず受け入れたいと考えています。2つ目は22年度の後期から留学生センターに「ビジネス日本語」というクラスが新設されます。こちらは日本語の初級レベルのクラスの受講を終えた院生と研究生を対象に考えています。
 このような学内の動きを考えると、本学におけるビジネス日本語教育の体系化もそれなりに進んできたと言えるでしょう。今後も留学生の就職支援はもとより、ビジネス日本語については学内及び近隣大学と連携しながら拡充していきたいと考えております。

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