取り組み事例紹介

国立大学法人 東京農工大学

■ インターンシップ

長期インターンシップは産学連携強化 人材養成プロセスの一環として機能

Q. インターンシップ事業について概要を教えてください。

本インターンシップ事業の大きな特長は、原則週5日・3ヶ月間という長期にわたり実施している点にあると言えます。
 当プログラムでは、インターンシップを、大学で学習する専門技術やビジネス日本語などの成果を確認・実践する場であると同時に、「就職」という出口以降を見据えて学生自身がより長期的な視野に立って企業が求める人材像や必要スキルを把握し、インターンシップ後の就職活動はもちろん、更なる自己研鑽に向けて自身のモチベーションを高める機会と位置づけています。
 インターンシップ事業実施の流れとしては、6月~7月に学生と面談し、学生の適性を把握すると共に、インターンシップにおいてやりたいことや関心事のヒアリングを行う一方で、コンソーシアム企業など協力企業から受入れ可能な時期や研修テーマ(候補)を提示いただきます。その後、学生・実施企業間で研修テーマのマッチングを行いますが、学生には企業担当者との面談やメールによるやり取りを通じて、いわば事前研修の機会を与えています。さらにビジネスコミュニケーションなどの事前教育の後に、8月初旬から順次インターンシップを開始し、12月末までに終了します。
 また、インターンシップ期間中には、教員が企業を訪問しフォローを行うとともに10月末頃に大学で中間報告会を行います。3月には就職支援セミナーと時期を合わせてインターンシップ報告会を開催し、研修の成果を発表させています。
 さらに、インターンシップ終了後に学生・企業双方にアンケートを実施し、インターンシップ実施状況の把握と併せて学生・企業双方からの意見収集・掌握に努め、今後の学生指導と就職支援・インターンシップ実施方法の改善へのフィードバックを図っています。

Q. インターンシップの事前教育・報告会について教えてください。

インターンシップの事前教育については、4月~7月にかけてのビジネス日本語・日本ビジネス教育の講義の中でビジネスマナーなどに関する指導を行っています。また、グループ演習(PBL)を通じてチーム開発などの実践力を涵養することにより、インターンシップに参加する上で必要とされる能力が身につくような教育も行っています。さらに、インターンシップの2週間程度前には、丸1日かけて最終確認を含めた指導を行っています。ここでの目的は、インターンシップに先立って企業と取り交わす誓約書を読ませ、知的財産権や機密保持等に関しての意識を持たせること、企業で働く上で必要となるビジネス・コミュニケーション(報告・連絡・相談)をケーススタディ形式で理解させることです。
 報告会については、原則、インターンシップ期間中と終了後の2回実施しています。中間報告会は学内教員、学生のみを対象として実施しています。機密情報等の関係で業務の詳細は報告できないため、研修テーマを通して理解した当該業界の状況理解、自身に科せられた研修課題の理解と取り組み状況、研修を通して感じた自分の適性やスキルに関する現状把握と今後社会に出るために必要と思われることなどを中心に報告させています。
 最終報告会については、受け入れ先企業やコンソーシアム参加企業からも担当者をコメンテータとして迎えた上で実施しています。上記内容に加え、自己学習状況や自己への気づき、インターンシップ経験後の大学生活や将来への思い、後輩学生へのメッセージなどの報告を通じて、個々人の研修成果を関係者間で広く共有することを目指しています。

Q. 修士の学生に3ヶ月間のインターンシップはカリキュラムの負荷にはならないのでしょうか。

インターンシップの期間については、本プログラムでは企業の研究開発部門への就労経験を重要視しているため、短期間では企業の業務を実際に体験することができず、テーマを決めて開発を行う事を経験させるには最低2ヶ月が必要と考えています。受け入れ企業の職場の方からも同様の意見をいただいています。この点が、人材採用部門が中心に進めている一般の公募インターンシップとは異なるところであり、受け入れ企業側も趣旨を十分に理解し、産学連携の新しい良い取り組みとの意見をいただいています。
 また、留学生にとっては日本企業で働くことが初めてとなるため、企業側の教育担当者との異文化交流、人間関係の構築を通じた環境適応、ビジネスコミュニケーションの実践経験(ビジネス日本語、報告・連絡・相談等)等に要する時間を考えると3ヶ月という期間が妥当であると判断しました。
 しかし、カリキュラム中の3ヶ月間をインターンシップに充てる事は、留学生、指導教員双方にとって修士研究のスケジュール的にも非常にハードであり、大きな負荷となりますが、それ以上にインターンシップ参加による学生の成長やモチベーション向上等の効果が大きいため、関係者間で協力し合いながら実施しています。

Q. インターンシップ実施により留学生にどのような効果がみられましたか。

インターンシップの位置づけでもご説明しましたが、インターンシップを通して大学とは違った環境に身を置くことにより、大学の中だけでは感じることの出来ない多くのことを学生は経験しています。大きく分けて3つの効果が見られました。1つ目は、目的志向の研究開発を経験することを通して、大学で習得した学問、理論、専門知識などが、最終的な出口である産業界ではどのように利活用されているのかを知る機会となり、将来自分自身何をしたいのか、すなわち、将来のキャリアを考える切っ掛けとなったことです。
 2つ目としては、産業界で働くために何が重要となるのかなどの「気づき」の機会、すなわち、社会に出るために必要となる専門知識やスキル、就職活動に向けて自身の現状を把握することなどにより、今後の学生生活や就職活動へのモチベーションが向上した点が挙げられるでしょう。
 3つ目は、専門的な知識や技術ではなく留学生として日本企業文化への適応やビジネスシーンで必要とされる語学スキルや慣習、コミュニケーション能力等を実践しながら習得することができたことです。
 また、本プログラムでは長期インターンシップと並行して研究や履修を進めなければならず、自身のスケジュール管理を計画的に行う必要があります。特に産業業界では、業種を問わずスケジュール管理能力が大事とされていますので、大学在籍時から学業や研究とインターンシップを両立させることでスケジュール管理能力の育成という側面的な成果も出ています。
 また、企業側からも、学生の指導を通じて日本人社員が刺激を受けた、若手の研修指導者にとっても部下指導の機会となった、学生市場や学生目線の意見を聞くことにより今後の開発に役立った、などの声もあがっています。また、留学生との異文化コミュニケーションの機会となったことや留学生を受け入れることに対する心配や躊躇感が少なくなったなど、グローバル展開を志向する企業にとっても有益な取り組みであったとの意見もいただいています。

Q. 長期インターンシップで苦労された点はありますか。

長期インターンシップの立ち上げ時は、受け入れ先の企業は教員とコンタクトのある企業が中心でしたが、受け入れ先の現場と人事労務部門双方のスタッフの理解が必須となるため、双方に本学のインターンシップの目的や意義を十分に理解してご協力いただくことに努めました。そのため当初はなかなか多くの受け入れ企業を開拓できませんでしたが、受け入れてくれた企業側の反応も良かったため、その事例をご説明することで本取り組みにご賛同くださる企業も増えてきています。
 しかし、インターンシップ受け入れのご提案をいただいても、学生の数は限られていることと、学生もインターンシップ先として大手企業志向が強く、マッチングを行う際に苦労しています。最終的に「自分自身で選んだ研修テーマ」に基づくインターンシップを行ったとの自覚を持たせることが肝要であり、その点にも留意しています。
 さらに、3ヶ月間という長期にわたり研究室不在となることに対して、指導教員の先生方にご理解をいただく事も大変です。この点が最大の課題のように思います。
 このように苦労した点は少なくありませんが、それ以上に留学生の長期インターンシップの効果は大きく、最近は趣旨にご賛同の上ご協力くださる方も増えてきましたので、このインターンシップを通して研究と教育の両面での産学連携により、学生は勿論のこと大学、産業界双方にとって将来を担うグローバルな人材が育成できれば、苦労した甲斐があると思います。

Q. 今後の展開について教えて下さい。

アジア人財資金構想をきっかけにして、本学内にもいろいろな仕組みが立ち上がってきています。インターンシップも大きな柱として継続的に実施していますし、ビジネス日本語教育についても、国際センターが中心となって受講対象を本学全留学生へと拡大し、継続して実施しています。また、産学連携専門教育についても同様に、開講した6科目全てを工学府前期課程の正規科目として継続することに加え、成果を広くWebサイト上に公開するとともに、一部は書籍として出版しました。
 将来的に日本企業への就職を目指す留学生に対しては、自身の専攻科目の他にこれら「アジア人財プログラム科目」の履修機会を提供することで、アジア人財資金構想のスピリットを活かした支援の取り組みをこれからも継続的に行いたいと考えています。

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