取り組み事例紹介

公立大学法人 会津大学

■ インターンシップ

短期・長期の2段階で実施されるIT系企業向けインターンシップ

Q. インターンシップ事業の概要を教えて下さい。

本学で受け入れているアジア人財資金構想の留学生は、全員コンピュータ理工学(修士課程)を専攻しています。彼らはIT技術を学ぶ学生ですから、インターンシップに関しても、専攻分野の強みを活かせる内容にするための様々な方策を、プログラムの開始直後から模索して参りました。
 本プログラムのインターンシップで特徴的なのは、出口である日本企業への就職を目的に、1週間程度の短期インターンシップと1ヶ月以上の長期インターンシップの2回のインターンシップを実施することです。また、長期インターンシップについては学内において正規科目化し実施しました。短期インターンシップは会津の地元企業で行います。大学の周辺には、主に本学のOBが起業したIT系ベンチャー企業が集まっていますから、そういった企業を中心に受入先を開拓しました。IT系企業だけでなく、地元の製造業にも受入れをお願いしています。一方、長期インターンシップの受入先としては、学生の専攻や研究内容にマッチングする企業を、地元を問わず開拓しております。

Q. 短期・長期のインターンシップは、それぞれどういった位置づけにあるのでしょう。

短期インターンシップは、入学間もない学生がまず地元になじみ、地元企業を通じて日本企業の風土や雰囲気を知ることを狙いとした体験型のプログラムです。これに参加し、今後の課題を把握することで、より実践的な長期インターンシップに備えてもらう意味合いもあります。時期的には春期に1週間程度実施しますが、人によっては約10日間に及ぶ就業体験を積む学生もいます。
 一方、長期インターンシップは大学院(会津大学大学院創造工房セミナー)の正規科目として単位認定されるため、インターンシップ事前、事後にそれぞれ4コマの座学での教育を取り込むとともに、インターンシップ就業中においても学生は企業の課題と同時に、大学の専門プログラムの課題もこなすことになります。本プログラムでは、企業の品質管理や組込みなど、機能安全システムの研究に力を入れているため、留学生にも日本の企業文化とも言える「安心安全」への意識を高めてもらいたいと考えています。そこでインターンシップ先が品質管理や安全面でどういった取り組みをしているかを、就業体験のかたわら自分なりに調べるよう指導しているのです。
 もちろん品質保持や組込みなどに関しては、機密に関わる部分もありますから、学生が触れられる情報には限りがありますが、技術的な部分だけでなくマインドの面でも、日本企業の「安心安全」へのこだわりを知ってほしいと考えています。
 長期インターンシップの場合、実施時期は夏期に行い、期間は1ヶ月(実働20日)以上としています。短期同様、企業によって期間が違いますから、2ヶ月近く取り組んだ学生もいます。

Q. 受入れ企業はどうやって開拓されているのですか。

コンソーシアムでご協力いただいている企業はもちろん、産学連携専門教育で外部講師として招聘している企業や教材開発でコンタクトした企業にも働きかけ、学生の選択肢をできるだけ増やすべく取り組んでいます。1期生(平成20年10月入学生)のケースですと、長期インターンシップの受け入れに66社の企業に打診をし、14社(20人の受け入れ枠)の開拓を行うことができました。
 また、受入れ企業開拓に関する本プログラムならではの取り組みとして、学生の自主的な応募を推奨している点があげられます。学生自身がインターンシップを行いたい企業を探し、応募するというもので、今回学生自身が応募し受入れが決まったのは大手1社にとどまりましたが、インターンシップに対する学生のモチベーションを高めるという意味では効果があったと思います。コンタクトした企業群には、今後も様々な形でアプローチしていきたいと考えています。

Q. 事前教育の内容について教えてください。

先ほど申し上げたように、長期インターンシップについては大学院の単位に認定されますから(4単位)、90分×4コマの事前教育にも力を入れています。事前教育では、ビジネスマナー研修やインターンシップ中に課題として行われる「日本企業における品質管理」の取り組みに対する知識教育、インターンシップの各種手続きなどの座学の教育に加え、実地研修として、首都圏で開催されているインターンシップイベントに参加することで、インターンシップの知識を深めさせると共に、ビジネスマナーの実践の場としても活用しています。

Q. インターンシップ中には面談を実施なさっているそうですが。

学生と企業のスーパーバイザー(インターン受入れ部門の担当者)、我々サポート側による3者面談を3回実施します。1回目は趣旨説明的な初回引率です。次にインターンシップの後半を企業・学生がお互いによりよいものにしていくための中間面談を実施し、問題点と解決策を探った上で3回目の終了面談につなげます。面談はいずれも学生の状況を把握するとともに、就職をにらんで企業とのチャネルの強化を図る目的で行っていますが、特に中間面談は企業の率直なご意見を聞く上でも重要です。
 また、留学生双方によりよいものとするために、インターンシップ管理ツールとしての「インターンシップの栞」を作成し、留学生にはインターンシップの業務フローや提出資料の目的、注意事項、作業遂行上の成果物の作り方や守秘義務について等指導事項をまとめ、企業側にはお願いする指導事項や学生が作成する日誌、大学院単位課題として実施する企業の品質管理に関する取り組み調査等をとりまとめ活用しました。期間中、企業には勤務状況などのコメントを記録していただいているのですが、これは情報共有ツールとして有効でした。学生のほうでもインターンシップでの成果目標や日々の活動内容、進捗状況や課題を作成していますから、面談ではこれらを用いてディスカッションするため、双方のコミュニケーションを円滑に行うことができます。

Q. 事後教育ではどういった取り組みをされていますか。

体験交流会と成果発表会を実施しています。体験交流会では、インターンシップを終えての感想を座談会形式で学生たちが話します。成功体験はもちろん、日本企業ならではの慣習への戸惑い、印象に残った出来事などを自由に語り合います。成果発表会は、研修企業の担当者に聞いてもらうという想定の元、全員スーツ着用、発表は一人5分という制約を設けて行いました。顧客役の教職員からは、就職活動を意識した厳しいコメントも飛び出しました。これ以外に企業の取締役や先輩留学生から学ぶレクチャーも行います。就職活動を本格化して行くにあたって身につけておくべき知識の取得と就職意識の喚起を目的としています。

Q. インターンシップ実施後、留学生・企業の意識は変わりましたか。

留学生については、インターンシップを経て就職に対する意識が大きく変わりました。参加前は就職活動に対するイメージが希薄なのですが、戻って来てからは具体的に志望企業を考えるようになります。その意味でインターンシップは大変有意義だと思います。また、インターンの際には、日本語力などの面で企業は配慮してくださっているのですが、就職となるとまた話が別であるという課題も見えてきました。
 一方で企業側の評価にも変化が見られました。インターンシップを受け入れた企業の半数以上が採用に向けても前向きな考えを持っており、現在受入れ企業にて内定を獲得した学生も出てきました。また、インターンシップでの評価が考慮され、SPI試験や1次試験をパスさせる企業も出始めたことは、日本語面でハンディをもつ留学生にとって有益となります。

Q. IT業界ではどれくらいの日本語力が要求されるのでしょう。

企業によっては、クライアントとの交渉時に言葉の裏に秘められたニュアンスまで理解してほしいとおっしゃるところもあります。その一方で、話すことよりも読み書きを重視する企業もありました。日本語力はあまり高くないにも関わらず、専門スキルやコミュニケーション能力を高く評価され、ベトナムで事業展開をしている企業への就職が決まったベトナム人学生もいます。ですから必ずしも一律ではないのですが、全般的に現状よりワンランク上の日本語力を求められるケースが多いと言えます。IT業界の場合、テクニカルタームが多いという事情もあり、研修先で耳にした技術用語の辞書を自作して学習している学生もいました。

Q. マッチングで苦労されたこと、工夫されていることなどはありますか。

ひと口にITと申しましても企業は様々な事業を行っていますから、学生の専攻に近いところでマッチングしていく必要があるのは言うまでもありません。しかし、専攻と一見関係ないように見えて、どこかで深くリンクしているケースもありますから、そのあたりは学生ともよく話し合うことが重要です。プログラミングが得意でない学生をIT系の企業にお願いした際、一度は断られてしまったのですが、この学生は人と接することが得意ですからとお話して、人事の方にほかの部署を探していただいたこともありました。
 マッチングはもとより、インターンシップ中も常に学生の状況を把握してフォローする体制が大切だと思います。期間中、夜中に学生から電話があり話を聞いたところ、発熱して意識がもうろうとしてきたと訴えたので、慌てて病院の救急センターを案内したこともあります。異国で学ぶ学生には、ささいなこともストレスになる傾向がありますから、手続き的な部分だけでなく様々な面できめ細かなケアを施す必要があるのです。

Q. 今後の展望についてお聞かせください。大学全体の取り組みとしてインターンシップを広めていこうという動きはありますか。

今後の大学の方針として、就職支援やインターンシップを強化する方向性が打ち出されています。就職支援室が設置されスタッフを増員する方向に動いていますし、本プログラムにおいても上記したインターンシップの管理ツールを作成することもできました。
 そもそもこのインターンシッププログラムは、アジア人財資金構想の参加留学生は必修になっていますが、それ以外の留学生や日本人学生も履修可能です。今後は学内の一般留学生や日本人学生についてもキャリア教育の一環として就職を見据えたインターンシップを広げていきたいと考えております。