取り組み事例紹介

国立大学法人 京都大学

■ 海外リクルーティング

グローバル企業と連携して実施するリクルーティング

Q. 京都大学のリクルーティング概要や手法について教えてください。

本学では企業と連携してのリクルーティング活動を行っています。既に3回実施しており、中国、マレーシア、タイ、インドを実施企業の担当者の方を伴い訪問しました。現地では、京都大学や参加企業の説明会、模擬講義及び大学側と企業側双方による志望者面接などを行います。
 アジア人財資金構想は産学連携プログラムですから、就職という出口の部分やインターンシップだけでなく、留学生を迎え入れる入り口のところから企業と連携して行うのが、あるべき姿ではないかという考えからスタートした試みです。
 リクルーティングの参加企業は、以前より北京や上海といった中国の主要都市、あるいはベトナムにおいて独自に同様の取り組みをされていました。それは厳密な意味でのリクルーティングというよりも、現地で学ぶ優秀な学生や日本への留学生に奨学金を給付する社会貢献的な活動なのですが、学生の選考の部分ではすでに蓄積されたノウハウをお持ちです。
 しかし、実施企業のほうでも西安という中国内陸部の都市やインドの人材についてはまだあまり把握されていませんでしたから、この試みには大変関心をお持ちいただけたようです。企業と連携してリクルーティングを実施していると言っても、この活動は参加企業への入社を目的とするものではありません。京都大学工学部を通して優秀な人材を育成し日本社会へ送り出す、そのためのプログラムとしてご協力いただいております。

Q. 具体的にはどういった企業が参加実施企業に名を連ねているのですか。

NECと東芝、パナソニックです。それ以外にも、この活動に共感を示してくださっている企業もありまして、例えばある企業は、中国での説明会に現地法人の中国人社員でなおかつ日本の大学への留学経験のある方を派遣してくださいました。その方にも登壇してもらい、日本の大学についての説明や、中国人として日本の企業に入るのは、どういうキャリアパスがあり、どう苦労があるかということを具体的に話してくれました。日本のビジネスマンとして活躍されている方でしたのでとても効果的で説得力もありました。

Q. リクルーティングは協定校で行うのですか。

中国の西安交通大学、マレーシアのマレー大学、タイのチェラロンコン大学など、多くは協定校で行います。しかし、インドの3大学(インド工科大学のデリー校、プネ大学、チェンナイのアンナ大学)とは協定関係を築いていません。企業からの要望もあり、私どものほうで研究者の関係先などを当たって開拓しました。

Q. 訪問先の大学のリアクションはいかがですか。

先方の副学長レベルの方との面談なども行うことでプログラムの周知に努めましたが、日本企業への関心は高いと言えます。中国、マレーシアなどでは日本企業に対する学生の好感度も目を見張るものがあります。しかし、インドでは課題があると言わざるをえません。インドでは諸外国からのリクルーティングが多く競争力が高いということを感じました。また、日本への留学を志向する学生が思いのほか多くないのです。インドのトップレベルの学生たちは、欧米の金融系企業やマネージメント企業への就職を目指していたり、あるいは博士課程を経て研究者として大成したいと考える傾向にあります。インドで訪れた3校では、いずれも共通の印象を持ちました。

Q. リクルーティングに際して学生を選考するポイントはどのあたりですか。

個人的な見解ですが、ソーシャルスキルがあるかどうかだと思います。もちろん専攻分野での知識や日本語力も重要ですが、これまでの修了生で大手企業への就職が決まった学生は、対人コミュニケーションスキルに秀でていました。自分一人で解決できないことがあれば、周囲の人に聞いて回って解を見いだす能力が高いのです。企業の担当者もそういうところを見ておられると思います。志望者を受け入れるか否かは、現地の指導教員ではなく当方で判断しています。
 面接の際には、私自身は就職を見据えつつ大学院での研究がこなせるかという観点から質問し、企業の方は職業適性に関連した質問を主にされるのですが、驚くことに志望者に対する両者の見解はほぼ一致します。選考の時点では片言の日本語しか話せなくとも、好奇心とオープンマインドがあれば人は成長するのだと思います。

Q. 企業は学生の日本語力をどれくらい考慮するのですか。

企業によって温度差があります。研究所等であれば、英語ができれば日本人研究者に対しての刺激になるとの見解を示されることもありますし、社内での現場とのコミュニケーションや日本企業のクライアントとの打ち合わせ等を考慮すると日本語力を重視なさる企業もあります。

Q. リクルーティング後の留学生たちの成長ぶりはいかがですか。

現在就職活動をしている修士2回生の学生たちは、昨年の夏休みの段階で、リクルーティング参加企業及び「京大桂会」に加入しているコンソーシアム企業はもちろん、その他の幅広い企業でのインターンシップを体験していますが、インターンシップの前後で就職に対する認識が大きく変わります。日本企業への就職を前提としたプログラムですから、学生たちは面接時から日本企業に興味があると口では言ってますが、おそらくリクルーティング段階においてはさほど実感がないのでしょう。日本の大手企業に対する漠然とした憧れこそ抱いてはいても、日本でのリアルな働き方に対するイメージは希薄で、口を揃えて「日本企業は真面目」といったステレオタイプな回答をしていました。
 そこから考えると、彼らは非常に成長したと思います。リクルーティングでご一緒した企業の担当者には、学生の成長ぶりを追いかけていただきたいので、同じ方に担当し続けていただけるようお願いしているのですが、インターンシップ報告会後には、かなり成長したなあと皆さん驚いておられました。
 しかし、リクルーティングの成果が本当に問われるのはこれからだと思います。出口の日本企業への就職が決まって、初めてリクルーティングの成果といえるのではないでしょうか。そういう意味では、現在就職活動に励んでいる学生たちは、日本滞在期間がせいぜい一年余りですから、語学面を含めてハンディを背負っているのです。しかし、個別対応をしてくださるキャリアアドバイザーの指導の成果もあり、ある程度日本企業に対しての理解が進んでいます。これまでと同様の実績を残してほしいと思います。

Q. リクルーティングで苦労された点を教えてください。

従来より京都大学は研究者志向が強いことで世界に名が通っていました。アジアの各大学もそのように認識していますから、その大学から就職を視野に入れてリクルーティングに行くというギャップをいかに解消するかに頭を悩ませました。企業と共に活動することで、京大にもこれまでと違うキャリアパスがあることをプレゼンテーションできたのは意義があったと感じています。
 それと同時に企業のほうにもメリットがあったのではないでしょうか。日本企業が海外の大学に入るにはそれなりの障壁もありますが、京大との共同プログラムであれば、現地の大学も受け入れやすいのです。win-winのパートナーシップを構築できたと思います。

Q. リクルーティング及びアジア人財資金構想への取り組みの今後の展望についてお聞かせください。

先ほど述べたことと重複しますが、このプログラムの意義は、実施する側の認識を新たにさせてくれたところにあります。いままでの京都大学は、留学生に対して専門知識を授け、母国に戻った後に大学の教員になるというルートを用意できるというところに強みがあったのです。ですから卒業後に日本企業への就職を選択する留学生は少なかったのですが、少子化等日本の今後を考えると、留学生にも人材として活躍してもらわねばならない状況になっていますから、これまでの路線からの軌道修正を図る時期でした。アジア人財資金構想の導入は、そのタイミングに合致していました。
 就職を視野に入れた留学生教育を行うことで、今後の課題も見えて来ました。例えばそれはリクルーティングであり、インターンシップであり、就職支援です。日本語教育に関しても、これまでなら研究室の教員とコミュニケーションができればいいのではないか、というレベルで考えてきましたが、企業に送り出すということになると、それでは通用しません。現在では多くの企業が、グローバル人材としての母集団の形成を視野に入れて採用を行っていますから、以前のように個々の教員レベルで就職の面倒を見ることができなくなっています。
 インターンシップや日本語教育などのカリキュラムは、全学連携することで、ある種の教育インフラ的な扱いとして行わなければいけないということへの理解がこのプログラムを契機に広がっていますし、大学組織もそういった時代に対応できるような形への改善が進んでいるのです。

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