取り組み事例紹介

国立大学法人 九州大学

■ 就職支援

留学生の就職はプロジェクトのスタートラインにすぎない

Q. 就職支援事業について概要を教えてください。

当事業の概要を端的に表すと出口を見据えた就職直結型事業の展開とシームレス支援の体系化を作り上げたということです。具体的には、専門的知識を習得する専門教育と、日本で働くために必要なビジネス日本語能力の向上を基本視座として、最終的には就職に結実するよう事業を展開しております。日本企業で働く意義や心構えなどを喚起する目的で行う、合宿形式の「AQ塾」。その後2-4週間インターンシップで企業の現場に触れ、多様な現場体験とOB人材との懇談を図る「企業見学会」の実施、企業研究就職活動の支援を目的とした就職ガイダンスと企業見学会が一体となったジョブマーケットがあります。側面支援として企業の開拓やキャリアカウンセリングによるサポートを行い、サポート企業を集めた就職支援セミナーを開催し、企業説明会を開催しています。また、就職支援事業は学生だけではなく教員もかかわるため、年度当初、指導教員向けにオリエンテーションを行うとともに、産業界と留学生を預かる指導教員との懇談会を開催しております。

Q. 合宿形式で行う就職支援事業「AQ塾」について教えてください。

平成21年度初の取り組みとして、夏に2~4週間実施するインターンシップ研修の前に、1期生と2期生による合同合宿(AQ塾)を行いました。日本企業で働く意欲を喚起する目的があります。合宿では、産業界の人事の担当課長がコーディネーターとなってケーススタディをグループディスカッションにより実施し、「意志伝達力」「組織行動力」「提案解決力」といった視点から学び、学生に発言させる場を提供し、コミュンケーション力、プレゼン力、日本語力の強化を行いました。留学生から留学生へとバトンをつなぐため、本プロジェクトOBをよび経験談を伝える合宿は平成22年度も実施する予定です。

Q. 留学生向けの就職ガイダンスと2回の企業見学会を連動させた「ジョブマーケット」について教えてください。

ジョブマーケットは11月に開催しました。就職支援の一環として、留学生に対して製造現場の体験など生の企業情報の提供を図るとともに、就職ガイダンス等を実施することで、年明けより本格化する就職活動をサポートする狙いがあります。これは九州大学では初となる取り組みです。
 就職ガイダンスでは、自分の強みのアピールにつながるエントリーシートの書き方を指導したり、学校推薦と一般公募の違いなど、留学生の就職活動の枠組みを教えるほか、日本企業で働く留学生の心構えを指導しました。ガイダンスではほかに、接遇研修や模擬面接なども行っています。このガイダンスの際に、40社に及ぶサポーター企業への就職を希望する場合には推薦状が発行されることや、人事担当者に電話や文書などで配慮要請を行うことなどを、留学生に改めて伝えています。
 ジョブマーケットでは、就職ガイダンスの前後に企業見学会を2回セッティングしています。ただ見学するだけでなく、九州大学OBや留学生OBとの懇談会を実施し、そこでアドバイスをもらえるようにしています。

Q. それ以外の就職支援としてはどういった取り組みを行っていますか。 

平成21年度初の取り組みとして、12月に産業界と留学生を預かる指導教員との懇談会を実施しました。産業界が求める人材像を指導教員に理解してもらうこと、留学生が各専攻で何を学んでいるのかを産業界に知ってもらうなど、産業界の人事担当者と大学教員の緊密なネットワーク作りが目的です。この場においては、サポーター企業にアジア人財資金構想の留学生がエントリーする場合は推薦状を発行することや産業界向け要請文が発出されることをお伝えし、今年2月のコンソーシアム協議会でもさらに念を押しました。
 また、12月の懇談会の後に、サポーター企業を集めた就職セミナーを開催しました。当日はプログラム受講生の自己PRやサポーター企業18社の全体企業説明、個別ブースによる企業説明会を開催し、当日は九州大学に在籍する一般留学生も参加し企業関係者併せて129名が参加する大規模なイベントとなりました。

Q. 就職支援事業の成果を教えてください。

平成20年10月の受入学生12名のうち、22年3月卒業予定者である11名全員の採用が決まりましたので内定率は100%を達成できました。九州に本社を持つ企業が6社、九州外の企業が5社で、機械、化学など幅広い業種から内定をいただいております。12名のうち1名(博士課程)は22年9月の修了予定者ですから、現在就職活動中です。
 また、就職内定率以外の成果として、出口を見据えた就職直結型事業の展開とシームレス支援の体系化が進みました。コンソーシアム運営協議会参画企業等の協力により、専門教育、ビジネス日本語教育から、インターンシップ、就職支援までを一気通貫して実施しております。コンソーシアム参加企業以外にも、留学生採用に意欲的な企業にはプロジェクトに加わっていただき、サポーター企業は40社に拡大しました。

Q. 23年度に向けて就職支援事業の課題と、対応策はありますか?

地域産業とのつながりの強化が今後の課題ですし、コンソーシアム参画企業からは留学生の日本企業への就職意欲の低さを指摘されていることからも、留学生のビジネス日本語能力の向上も一層図られなければなりません。地域産業とのつながりを強化するためには、 自治体の協力を得て、研究開発に携わる地域企業とのネットワーク構築を視野に入れた懇談会を実施したいと考えています。九州大学は留学生の受け皿確保、地域企業は技術力向上、自治体は地元企業の成長や雇用の増加による税収増など、3者にとってwin-win-winのパートナーシップを築く機会でもあるのです。
 また、アジア人財構想資金の到達点は留学生の就職というふうに思われがちですが、それは出発点に過ぎません。留学生が地域に定着して初めて、プロジェクトが地域に根付きます。それこそが真に自立化なのだと思います。ですから今後は、留学生の産業界への定着に向けたフォローアップ体制の構築に力を入れたいと考えています。直近の具体的プランとしては、就職決定企業、学生への個別訪問によるヒアリングなどを予定しています。

Q. 留学生の研究テーマに合致する企業の中からジョブマッチングするのではないのですか。

もちろんそれぞれの専攻分野が重要な判断材料であると思います。但し、就職の際に重要なのはテーマよりプロセスなのではないか考えられます。学生が課題をいかに認識し、問題解決に向けていかにアプローチしたかという部分や、チーム内でどういった役割を果たしたかが問われるのではないかと思われます。そういったことを日本語でロジカルに説明することが重要と思われます。産業界が見極めたいのは、大学で学んだ知識を土台にどれくらい成長できる人材であるかという部分ではないかと考えられます。

Q. アジア人財資金構想の導入により、留学生トータルでの就職スキームも整備され始めたという印象はお持ちですか。

少しずつ輪が広がっているという手応えは感じます。就職活動がうまくいかず、私どものところに相談に来る一般の留学生もいます。キャリア教育に関しても、将来的には日本人学生と同等の形で根付かせるのが理想的だと思います。産業界の方々とお話をした際にも話題になったのですが、留学生が組織をインスパイアする刺激剤になってくれればいいと思うのです。そうなれば日本の大学や企業の国際化は一層進展するでしょう。
 しかし、まずはこのプロジェクトを通して、アジアからの留学生に日本企業に入ってもらうことが重要だと思います。ですから、就職率100%に喜んでばかりはいられません。留学生が企業に定着するためにはどうすればいいかを考えるべきです。10年後に働いてよかった、雇ってよかったと留学生と企業の双方に満足してもらえるようなプロジェクトにしたいと考えています。

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