取り組み事例紹介

国立大学法人 名古屋工業大学

■ 海外リクルーティング

国際的ネットワークの拡大と各国学生への認知拡大へ

Q. 貴校の「アジア人財資金構想」以前の海外大学との人材交流の取り組みについてご説明ください。

当校は、以前より海外大学との国際連携を進めており、研究はもちろんのこと教育においても大型の国際連携の取り組みをこれまでも行ってきました。
 例えば、今では実施する大学も増えましたが、当時は日本で例がなかった海外の大学と連携し同時に二つの大学の学位が取得できるダブルディグリープログラムを他大学に先駆けて始めていました。
 また、海外の大学の在学途中で日本の大学に移籍し、日本の大学で教育して学位を授ける国際編転入制度のツイニングプログラムを先駆的に実施してきました。このような海外大学との密な連携に基づく教育プログラムを実施してきたことから、すでに海外大学との協力体制がある程度できあがっておりましたので、「アジア人財資金構想」では、これらの連携力をフルに活かして優秀な学生をリクルーティングする体制を築き上げてきました。

Q. 「アジア人財資金構想」における新しいリクルーティングの取り組みについて教えてください。

大きく分けて3つあります。1つ目はこの事業を契機に新たな海外有力大学との連携を開始したこと。2つ目は自治体と協力して、名古屋地域全体に海外から優秀な人材の呼び込みを始めたこと。3つ目は企業と協力して優秀な学生を採用する「企業奨学金制度」を設立したことです。

Q. 新たな海外大学との提携についてはどのような形で行われたのでしょうか。

まず大学トップも含め、全学を挙げて当プログラムに取り組み、入口から出口までの体制を早期に確立することから始めました。リクルーティングについて学長や理事等大学トップが自ら海外大学を訪問し、新規の海外大学との学術交流協定を締結したことなどがその例で、タイのチュラロンコン大学、ベトナムのハノイ工科大学、中国の復旦大学、インドネシアのバンドン工科大学などとの学術交流協定を新たに締結しました。いずれも各国のトップクラスの大学なので非常に意義深い連携といえます。
 また、学内の様々な関連部局との間での連携体制を早期に確立しました。国際交流センターとは、本事業の海外リクルーティングや日本語教育で連携し、キャリアサポートオフィスとは、就職やインターンシップのマッチングにおいて連携するなどの体制を整え、これらの部局との間で情報を共有し、方向性を協議しながら進めていくことで、学内一丸となってプロジェクトを進めていくことができました。
 アジア人財資金構想プロジェクトは、入口と教育と出口が一体となったプログラムなので、単に教育部局だけではなく、学内全体で連携することがプロジェクトを進める上で重要だと考えています。

Q. 自治体と協力した取り組みについて教えてください。

行政、自治体、地域と一体となって学生を呼び込んでいくようなアクション、活動を行いました。名古屋では「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ」という、中部地域の3県、22市、10の商工会議所、1経済団体連合会が連携し、名古屋の経済圏を拡大させるという取り組みを行っており、これまで海外企業を誘致する活動を進めてきました。しかし今後は企業だけでなく海外から優秀な学生を呼び込んで、もっと魅力ある名古屋にしていこうという取り組みのため、「アジア人財資金構想」と一体となって、海外の大学に名古屋への留学を宣伝する機会を設けたり、使節団を海外大学に派遣するなど、大学の学生だけでなく現地の企業も集めて名古屋の魅力を説明したり、このプログラムの紹介を行うなどしています。

Q. 「企業奨学生制度」について教えてください。

平成20年度7月から「企業奨学生制度」という、企業から資金提供を受けて留学生を採用し教育する制度をつくりました。「卒業したらこういう企業に行く」という入口においてある程度出口の方向付けをした採用制度です。奨学金は月額8万円で2年間支給され、別途学費も免除されます。
 またこの制度の特徴は、学生の選考時、出資企業にも学生の面接に参加してもらっているということです。今までは学生の選抜は大学の独自基準で行うのが当たり前でしたが、この取り組みに関しては企業の意見を聞きながら選抜を実施し、事業の自立化を視野に入れて行っています。

Q. 自動車業界において、企業側が求める人材、国籍はどのように考えているのでしょうか。

自動車産業の場合、世界最適生産の体制が進んでおり国ごとに役割が違うため、国ごとに必要な人材のニーズが違ってきます。また、完成車メーカー、部品メーカー、進出して長い経験を持つ企業、進出して間もない企業など様々なステージのメーカーが混在しており、それぞれにニーズが異なってきます。そこで現地法人における実態調査が必要不可欠と考え、現地法人に直接出向いて人材ニーズに関する調査を行い、リクルーティング活動に反映しています。
 こういった調査の結果、市場という意味では中国インドが重要であり、生産拠点という観点からはタイが重要な対象国であると考えています。また、タイに部品を供給しているインドネシアやマレーシアなどの国々も重要な対象国であると考えられています。
 そのような企業側のニーズを反映した結果、中国、インド、タイ、ベトナム、インドネシアを重点国として採用しています。

Q. 中国やインドなどアジア諸国の自動車業界が市場急成長していく中で、各国の学生の希望職種や進学における考え方に変化はあるのでしょうか。

インドはまだこれからの市場ですが、大型車が街を行き交うようになってくると、彼らの自動車産業に対する意識も1年単位で変わってくると思います。また中国に関しては、大学においても自動車学部が設立されるなど自動車産業がメジャーになってきています。自動車産業はトータルエンジニアリングであり、機械工学、電気、情報、材料などのすべての分野の技術がないとものを作ることができません。
 また、今は電気自動車やハイブリッドの時代ですから、これからはもっと電気、情報、材料などの需要が増してくると思います。次世代交通システム(Intelligent Transport Systems)により、情報分野が重要になる今後は、インドの学生も大変重要になってくると思います。

Q. リクルーティング活動、選考はどのように行っているのでしょうか。

海外大学のキーとなる教授との連携体制をつくるのが第一です。
 活動としては、学生に対するプログラムの紹介、さらにコンソーシアム企業について詳しく説明するということを海外の大学で行っており、1校あたり30~50名ぐらいの学生を集めて行っております。ハノイ工科大学については、日本語教育プログラムがあるので、日本語で説明しています。英語圏では英語で説明を行っています。 現地の学生の興味は大きく分けて3点あり、一つ目が奨学金です。二つ目は受け入れ大学がどのように学生を扱うのかということで、三つ目は出口である就職です。就職という観点からは、学生達の目はやはり知名度の高い企業に向かい、知名度の低い企業に対しては関心が薄いのが実情です。そこで、日本の自動車産業界にはたくさんの良い企業があることを説明して知ってもらうようにしています。
 選考においては、海外大学へ訪問し面接する場合もありますし、調書で審査してインターネットを利用した面接をする場合もあります。
 面接は通常の試験に準じて行っており、専門能力を把握するために面接の場でいくつか質問をし、これらに対する回答から能力の把握を行うと共に、これまでの勉学や研究成果、プロジェクト遂行能力などを評価しています。また、日本でどれぐらい働く意欲があるか、日本に適応できそうかという部分も確認するようにしています。

Q. 学生に色々な企業への興味を持たせる工夫はどのようにされているのでしょうか。

授業の一環として、企業人による企業説明等を取り入れることで、企業に対するイメージや認識を深めてもらっています。また、勉強して専門性を身に着けるにつれて、自分の力が発揮できる企業がだんだんと見えてくるため、知名度ありきということは少なくなっていく傾向があります。さらに、企業インターンシップにおいてはコーディネーターが各学生の研究分野や適性をふまえて適切に企業とのマッチングを行っており、学生達が就職について考える良い機会となっています。

Q. 「アジア人財資金構想」の取り組みにより得たものはなんでしょうか。

プログラムを実施することで、提携大学が増え、各国の国策や文化、気質がよくわかるようになりました。また、日本の企業で活躍できる学生像などもわかるようになってきました。
 また、リクルーティングによって、国際的なネットワークが大きく広がったというのは、当校として大きな資産になったと思っています。このような国際ネットワークは、今後新たな海外との連携プログラムを進めたりする上で大きなプラスになったと思っています。
 さらに、このプログラムがきっかけで当校への私費留学希望者が増えてきています。プログラムの説明会などを聞き、私費で当校へ留学を希望する学生が、ベトナムなどから多くなっています。
 国際的に日本の大学の知名度がなかなか上がらない中、このような取り組みを通じて大学の知名度が国際的に向上したことは大きな収穫です。

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