取り組み事例紹介

学校法人 立教学院 立教大学

■ ビジネス日本語

レベル別2段階指導でビジネス日本語力とコミュニケーション力を強化する

Q. 「ビジネス日本語」の指導概要を教えてください。

語学のレベルに応じて、2段階・6科目のカリキュラムを組んで指導に当たっています。上級者にはさらなるレベルアップを、初級レベルの学生には学力の底上げを図っているのです。本学の学生の日本語力をBJTビジネス日本語能力テストのレベルで申し上げると、大きくはJ1+クラスの学生とJ3クラスの学生に二分されるイメージです。
 初級レベルの学生だけでなく、J1取得レベルの学生にも課題はあります。上級者は日本語でのコミュニケーションに自信があるだけに、かえって反省点に気づきにくいケースがあるのです。
 上級者の課題として、擬音語、擬態語、あるいは慣用句などの語彙不足やイントネーション及び敬語の運用での不確実さが挙げられます。そういった面で不安が残る場合は、初級のクラスに戻って学び直します。レベルを2段階に分けているとはいえ、システマティックにしすぎず、2年トータルでの成長を視野に入れて、その都度学生の状況を見ながら判断しているのです。現状、初級者は1年目に最大5科目を履修できるようになっています。上級者は2~3科目です。2年目に入ると履修の数は減りますが、日本語能力を伸ばす必要のある学生は、3~4科目を履修しています。
 日本語能力でクラス分けをしている狙いとしては、いい意味で競争原理が働き、自分の位置もわかります。日本語が得意でなかった学生が伸びたのは、自分はなぜできないのだろうという思いが出発点となったのだと思います。初級クラスの学生でも母国ではトップクラスの成績優秀者ですから、自分よりできる人がいるという事実に気づくことがバネになります。

Q. 具体的にはどういった内容の授業を行うのですか。

1段階目では、日本語能力試験1級かそれ以上のレベルの文法や語彙、漢字、読解能力などを鍛えます。作文添削をリピートすることで、論理的な段落構成能力を高めたり、少人数指導で習慣化した文法・発音などの弱点矯正に努めます。
 2段階目ではより実践的なビジネス日本語能力取得を目指しています。社会人とディスカッションするビジターセッション、教室でのプレゼンテーション、電話応対などの実習を組み込んでいます。文法を完全に習得した上で、いかにコミュニケーションを組み立てていくかに重点を置き、就職活動でも通用する日本語力の養成を目指します。ビジネスシーンにおける日本特有の婉曲的な表現を学ぶ必要もあります。

Q. そういった実習の狙いはどこにありますか。

日本語力の強化を図りながら、社会人としての基礎的な能力を身につけることです。当プログラムでは両段階ともに自分で課題や目標を設定して自分で学習することを大切にしています。わかりやすい例で言うと、観光業界関係者に留学生がインタビューする演習も設けています。質問は留学生が考え、文字おこしも自ら手がけて最終的には記事集を作成します。また、その途中で、インタビューでの学びを企業の方々に発表する機会を設けております。
 こうした一連の課題に対する取り組みにより、ビジネス場面で必要な協調性やほう・れん・そうのスキルを身につけてもらう狙いもあります。

Q. インタビュー演習は立教大学独自の取り組みですか。

プロジェクトベースラーニング自体は、語学教育の中では珍しいものではありません。ただ、本腰を入れて実践しているところはそう多くはないのでしょうか。企業の方を紹介してもらうのは大変手間がかかるからです。我々の場合「立教観光クラブ」のおかげで、紹介がスムースにいく面はあると思います。インタビューを受けた企業の方が、留学生たちがインタビューの成果を発表するプレゼン会にも足を運んでくださることもあります。

Q. ほかにはどういった取り組みをされていますか。

一部のインターンシップや就職支援プログラムの授業に日本語講師が同行し、より実践的・効果的なコミュニケーションを行うためにアドバイスすることがあります。ディスカッション、交渉、プレゼンテーション、ホスピタリティ精神のある顧客対応など、あらゆるビジネスシーンにおいて、的確で臨機応変なやり取りを、口頭でも読み書きでもこなせる力を養成するためです。
 また、観光業界ならではの取り組みとして、昨年度は日本の地理や歴史を教える授業に力を入れました。県名や地名が読めない留学生が目立ったからです。日本語科目の第一の目標は、グローバル化する観光産業でリーダーシップを発揮できる日本語のコミュニケーション能力を育むことにありますから、観光業界で必要とされる知識は、積極的に教えていきたいと考えています。

Q. 教材はどのよう選んでいますか。

試行錯誤しながら、学生のレベルに合うものをその都度探しています。蓄積したノウハウを整理し、テキスト形式にまとめるのはこれからの課題ですが、現状では毎回特定の教材を用いているわけではありません。ただ、この方法は学生が少人数でかつ日本語もある程度できるからこそ可能だとも言えます。アジア人財資金構想のプログラムは、教員以外のスタッフも皆さんで協力しあって、寺子屋のように指導しているところが功を奏しているのではないでしょうか。日本の就職活動ではやるべきことがたくさんありますから、我々も日本語指導に専念すればそれでよしとするのではなく日常生活の中からあらゆる側面で親身のサポートを心がけています。

Q. 留学生はプログラム参加当初、どのくらいの日本語を身につけているのですか。

当プロジェクトは卒業後観光業界で接客業務を担当するケースも想定しており、必然と出口で要求される日本語レベルが高くなっています。そのため、選抜をする際に最低限の日本語能力ラインを日本語検定の1級に近いレベルに設定しています。
 そういった優秀な学生でも、レポートも授業もすべて日本語で行われる観光学部の専門講義についていくのは大変なようです。努力が報われて、観光業界の有名企業に就職が決まる学生もいます。

Q. 成長を見込めるのはどういった学生なのでしょうか。

日本の環境に適応しようとする留学生は、やはり企業からの評価も高いです。それは日本人学生も同じだと思いますが、指摘されたことを素直に受け入れる人が伸びます。インタビュー演習の際に、特に悪気もなく相手方に失礼な発言をしてしまった学生がいたのですが、日本社会における習慣や背景などを含めてその行為の意味するところを説明すると、納得して素直に「わかりました」と言っていました。そういう学生は次のステップに向けて自分なりのルールを考えますから、同じ間違いを繰り返しません。その結果成長も早いです。我々指導する側には、留学生が失敗したときにすぐ指摘すること、課題に対しては継続的にフィードバックすることが求められていると思います。

Q. 授業の成果はどのように測定していますか。

BJTビジネス日本語検定以外に、アメリカで開発されたOPI(Oral Proficiency Interview)というインタビュー形式の口頭運用能力テストも評価ツールにしています。この評価が2年間で大きく伸びた学生もいます。しかし学生の日本語コミュニケーション力は、こういったテストだけでは測れない部分もあるのです。テストの点数の伸びはいまいちでも、明らかに総合的コミュニケーション能力が向上している学生もいます。ですから、就職後に職場の方たちにどのくらい認められるかが本当の評価だと考えています。

Q. 夏休みや春休みの学習へのフォローはどのようになさっていますか。

留学生は夏期休暇中にインターンシップに行きますが、その間も適宜、コミュニケーションを取るようにしています。春期休暇は就職活動の時期と重なりますので、我々もほぼ毎日出勤します。履歴書やエントリーシートの作成などをサポートする必要があるからです。また、3月に行われる修了生の卒業パーティも後輩留学生に企画させます。招待客にご招待メールを送るなど、日本語学習のいい機会にもなるからです。

Q. 今後の展望についてはどうお考えですか。

これまでは主に中国やタイ・ベトナムから留学生を受け入れてきました。今年度はシンガポールやマレーシア、モンゴルからも受け入れますが、そういった国は漢字圏でないこともあり、BJTで400点前後(J3)レベルの学生が多いことが想定されます。そのことで上級者と初級者の実力差が一層顕著になる可能性があるため、両クラスのつなぎ方をもう一度見直したほうがいいかもしれません。
 それと同時に日本語教育とそれ以外の分野の連携を意識したいと思います。就職活動の支援を目的とするなら、キャリア教育が重要になってきます。日本語スキルの取得だけでは限界があるのです。そういった観点で言うと、今後は日本語教育とキャリア教育の連携が重要になってくると思います。

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