取り組み事例紹介

学校法人 立命館 立命館アジア太平洋大学

■ ビジネス日本語

就職支援のためのビジネス日本語教育

Q. ビジネス日本語教育の取り組みについて、具体的なテーマ、スケジュールを教えてください。

2年間を4つの学期に分けてビジネス日本語教育を行っています。4つの学期はそれぞれビジネス日本語Ⅰが就職活動基礎、ビジネス日本語Ⅱがインターンシップ、ビジネス日本語Ⅲが就職活動、ビジネス日本語Ⅳが働くための準備の位置づけを持たせてあり、インターンシップや就職活動の時期に合わせた教育を行っています。
 ビジネス日本語Ⅰでは、インターンシップや日本の就職活動に必要な知識、情報を獲得し、同時に自己分析や業界・企業分析に必要な日本語力を養い、自分の能力・適性に合う業界について考察することを目的としています。
 具体的には4つのテーマ、①インターンシップ生として求められる対応力や表現の基本を身につけ、適切なコミュニケーションができるようになる。②自己分析を通じて自分の興味や能力、価値観を発見する。③業界、企業を幅広く知り、志望業界、企業の情報を収集することができる。④目的に応じたメールを書いたり、就職活動に必要な書類を請求することができることを到達目標として設定しています。
 授業は週2コマ(1コマ95分)実施しており、ロールプレイやグループワークを基本とし、レポートや日本語教師とのメールのやりとり等を通じて実践的な「書く力」を養う等の授業運営を行っています。また、JLPTやBJTなどの資格取得のための補講1コマも行っています。
 ビジネス日本語Ⅱでは、日本企業でインターンシップを行うとともに、就職活動に必要なコミュニケーションスキルの基礎を学び情報収集やチームワーク力を養い、日本語運用力の向上を目指すことを目的としています。
 具体的には、4つのテーマ①就職面接等を含む多様な場面で適切なコミュニケーションができるようになる。②自分の考えや意見を理論的に組み立て、文書やプレゼンテーションで伝えることができる。③チームで課題を達成することができる。④就職活動に必要な資格を取り、語学試験のスコアを伸ばすことを到達目標として設定しています。
 授業は週2コマ(1コマ95分)実施しており、就職活動や就職試験に必要な知識の習得や企業面接の模擬訓練、チームで企業調査・研究を行い、結果の発表や報告書の作成等の授業運営を行っています。また、JLPTやBJTなどの資格取得のための補講1コマも行っています。
 ビジネス日本語Ⅲでは、企業説明会に参加し、就職活動を進めながら面接で求められる対応力、適切かつ効果的な表現を身につけ、内定を得ることを目的としています。
 具体的には、3つのテーマ①就職活動に必要な基本マナーを身に付け、実践できる。②就職活動に伴う文書(ES・履歴書)を作成することができる。③面接の場面で自分の考えや意見を理論的に組み立て伝えることができることを到達目標として設定しています。
 授業は週2コマ(1コマ95分)実施しており、流暢さや談話構成力を伸ばす練習をし、発話を録音してチェックをしたり、新聞、ニュース等興味のある企業に関することや就職活動に役立つ情報を収集し、グループで共有したり、就職活動に必要なビジネスマナーや、社会人としての言語行動について学び、ロールプレイで実践する等の授業運営を行っています。また、JLPTやBJTなどの資格取得のための補講1コマと面接・エントリーシート、の個別指導や時事ニュースの要約・意見をまとめる宿題等を行っています。
 ビジネス日本語Ⅳでは、仕事をするために必要な日本語運用能力の基礎を習得しながら、考え方や仕事の仕方を理解し、スムーズに職場に入ることができるようになることを目的としています。
 具体的には4つのテーマ①働くうえでの問題点を説明し、問題解決に取り組むことができる。②基本的なビジネスマナーを身につけ、実践することができる。③社内外文書を理解し、報告書や議事録を書くことができる。④チームでプロジェクトを行い成果を発表することができることを到達目標としています。
 授業は週2コマ(1コマ95分)実施しており、グループプロジェクトのための調査・研究し、報告書をまとめプレゼンテーションを行ったり、社内外のビジネス文書を理解し報告書や議事録などの文書形式を学びプロジェクトなどの会議の記録を作成したり、ケーススタディを使いながらビジネス社会の常識や日本企業特有の雇用慣行、人間関係を理解し、グループディスカッションを行う等の授業運営を行っています。JLPTやBJTなどの資格取得のための補講1コマや個別の面接指導等も行っています。

Q. 日本ビジネス教育等の取り組み内容について教えてください。

企業の慣習文化をベースに行っています。8つの専門科目があるのですが、その内の一番始めの導入部分で日本企業の考え方、企業文化、日本のビジネスの進め方などを中心に日本企業で働いていた方を講師に招聘し講義して頂いております。
 あとは、ビジネス日本語の授業の中で、年間3〜4回コンソーシアム企業の人事責任者や日本企業で働く卒業生(留学生OB・OG)を招聘し、企業の文化や企業哲学、業界全体の動向や経営戦略などについての講演をして頂いています。
 企業の講演後に、学生にはレポートを提出させています。ビジネス日本語の授業の中で行っているので、学生に提出してもらうレポートをビジネス日本語教員がポイントをまとめる力や文章力など添削をし、フィードバックすることで日本語能力を高める教育を行っています。
 また、日本の「ものづくり」の現場を学生に体験させるために、3年生時に2回程度、連携企業等の工場見学もおこなっています。
 あらかじめ企業研究や質問表を作らせて、見学したときにディスカッションができる形を作り、ものづくりの原点を理解させます。

Q. ビジネス日本語教育において、レベルによってクラスを分けているのでしょうか。

人数が少ないこともあり、特にレベル分けをせず1つのクラスで運営しています。本学は英語基準での入学を認めていることもあり、また、非漢字圏の学生も多いためスタート時の受講生の日本語力には差がでてきます。
 語学力に差がある場合レベルの低い学生に合わせてしまうとレベルの高い学生の為にならなくなるので、日本語レベルが低い学生については、先ほどのビジネス日本語教育の概要でご説明しましたが、各科目で週1コマの補講や個別指導を行う事できめ細かいフォローをおこなっています。

Q. ビジネス日本語の教員が就職指導も行っていると聞いたのですが。

まず、ビジネス日本語教育の体制ですが、3名でおこなっています。1名はコーディネーター的な役割で日頃の活動や流れをチェックして週1回打ち合わせを行い、問題があった場合にはディスカッションをしています。
 ビジネス日本語教育をおこなう時に、例えばエントリーシートにしても面接にしても日本語教育と密接な関係があります。
 当プログラムでは、日本語教員が、受講生のエントリーシートの書き方や自己PRの仕方などを教えますし、授業外においても学生からの相談を受けています。
 ただ、日本語教員も日本語の表現力などの観点からはもちろん指導はできるのですが、企業が求める内容やレベルについては、判断がつかないこともあるので、キャリアオフィスと連携しながら学生の指導をしています。

Q. ビジネス日本語のカリキュラムを作成するにあたり企業側の意見などは取り入れているのでしょうか。

プログラムの改善という観点で日本語教員が採用企業等を訪問して企業側のニーズや教育内容についてご意見を頂いております。
 ある企業人事担当者からは、非漢字圏の学生の読み書きの能力が弱いとの指摘を受けました。原因として非漢字圏の学生は、日本語力は弱いが、英語ができるため周りに英語のできるスタッフがいるとコミュニケーションを英語に頼ってしまう部分が見られるようです。
 一方で、日本語以外のプレゼンテーションや、人とのコミュニケーション力は非常に高い評価を頂いております。やはり学生時代から色々な国の学生と日常的に接することで、国際的なコミュニケーション能力が自然と身についているようです。
 また、訪問させて頂いて思ったことは、いわゆる就職活動等の本に書かれていることや我々が企業へ持つ印象が、企業の本音と少し違うという印象を受けました。今後も企業の生の声を聞くことにより、ビジネス日本語教育に反映していきたいと思います。

Q. ビジネス日本語教育で苦労された点は何でしょうか。

学生は有名な企業しか知らないので、企業研究からはじまります。企業を知らないですし、中国・韓国の中小企業は技術を持たない単なる下請けで、日本の中小企業とは大きく違い、大手企業よりも技術を持っています。そういうことを分らせて、日本の大手企業ばかりでなく、学生が中小企業にも目を向けるような教育をしなければなりません。
 一方で、自分の意見や考えを表現出来ないところをどのように指導し、学生に考えさせるかということを一番難しく感じています。
 面接する側の企業もプロですから美しい日本語がはなせても、中身がなければ内定を獲得するのは難しいと思います。
 だからキラっと光る何かを持っていることに、自分で気づかせることが必要だと思います。

Q. 今後の展開について教えて下さい。

日本で就職を希望する学生のために、23年度4月から日本語の最上位のクラスとして「キャリア日本語1」、「キャリア日本語2」をビジネス日本語を正規の科目として開講しています。
 「キャリア日本語1」は週4コマ(1コマ95分) 4単位、「キャリア日本語2」は週2コマ(1コマ95分)2単位でそれぞれの科目で定員を25名として2クラス設置しています。
 これまでGBLP(「アジア人財資金構想」のプログラム)の受講生の教育や内定先などに一般学生がある種の憧れを抱いていたようで、今回の科目設置後、履修希望者が多く人気の科目となっています。今回履修希望した学生は日本企業への就職に対してとても貪欲で、日本語力だけでなく優秀な学生が自然に集まってきています。GBLPの学生のサクセスストーリーがうまく後輩に伝達されているのだと思います。
 また、学内の日本語教育についても、これまでのアカデミックな日本語教育から、就職(出口)に対応出来る日本語教育に発展することができたということで、今後「キャリア日本語」を受講した学生がどのように成長し、巣立っていくかとても楽しみです。

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