取り組み事例紹介

国立大学法人 金沢大学

■ ビジネス日本語

長期休暇中の集中講座で「ビジネス日本語力」を大幅アップ

Q. 金沢大学におけるビジネス日本語教育の概要について教えてください。

本学のビジネス日本語教育は、大きく「総合日本語」と「ビジネス日本語」の2つに分けて実施しています。
 「総合日本語」については、2科目4単位で1年生前後期、2年生前後期に実施しており、従来の一般留学生向けプログラムの中上級科目を利用して特別クラスを編成し、企業人として要求される日本語力を養成しています。部分的に共通カリキュラムマネージメントセンター(AOTS)が作成した教材も活用して訓練内容・レベルを維持しながら、学期途中及び学期末の能力試験を実施して達成度をチェックし、特に非漢字圏の学生には必要に応じて補習・補講を実施しています。
 「ビジネス日本語」については、本学のビジネス日本語教育の最大の特徴であり、休暇期間中を利用し1年目の夏休みと春休み2回に分けて合計240時間を短期で集中的に行っています。
 2010年度の実績では、夏休みは20日間で1日4時間(基本は9:00~13:00と12回14:00~16:00)実施することで104時間の講義を実施しました。冬休みは34日間で1日4時間(9:00~13:00)実施することで136時間の講義を実施しました。
 1年目は1ヶ月間やり続けたのですが、インターンシップに影響することもありましたので、2年目の学生はそれを1週間縮めました。大変でしたが、学生の要望もありましたので総時間数は変えず、春休みには朝から夕方まで丸一日行った日もありました。

Q. 短期集中型のビジネス日本語教育のメリットとデメリットについて教えてください。

短期集中講義のメリットは、チームワーク醸成と内容の濃い教育の実現です。自然科学研究科の7分野にわたる学生達がいるので、同期生といっても専門の方に入ってしまうとバラバラでお互いに会えませんし、同国人でも結び付きが深まらず学習効果にも影響します。
 一方で、毎日顔を合わせるような講座ですと非常に団結力がつきます。講座での教材もプロジェクトベースのビジネス日本語が中心でしたので、意見交換をして議論をし、1つのものごとを協力して行い、計画、立案する課程で、非常にチームワーク力が発揮されたということがメリットだと思います。
 また、時期が集中しているので、毎週行うより外部講師も呼びやすいというメリットもあります。
 一方で、デメリットは、毎週やっているものではないので、課題(宿題)が出しにくいということです。毎日授業がありますので、ある程度時間が必要となり、調べて自分達なりに消化してまとめてくるというような作業ができないということです。
 なるべく配慮して週末の木曜日や金曜日に多く課題が出るように授業設定しましたが、それでも大変でした。

Q. 使用した教材及び、講師の手配はどのようにされていたのか教えてください。

教材は共通カリキュラムマネージメントセンター(AOTS)が作成した教材を集中講座に使えるように、部分的にカスタマイズしました。特に一部の教材は大学の実情に合わせ、テーマを「地域おこしエコイベント」や「金沢大学キャンパスの活性化」に置き換えたりすることで、集中講座で学生が取り組みやすいようにしました。
 講師については、(財)石川県国際交流協会に協力を仰ぎました。ビジネス日本語教育のノウハウが学内では不十分だったためですが、自然科学研究科では、4年間のプロジェクト終了後に大学にノウハウを残すことが命題となっていたので基本的な企画立案(カリキュラムデザイン)は大学側が主体的に取り組みました。

Q. この集中講座によってビジネス日本語の実力アップ、向上効果は表れたのでしょうか。

向上効果は表れたと言っていいと思います。当プロジェクトの効果測定ツールとしてBJTビジネス日本語能力テストを利用してプログラム開始時と終了時の効果測定をしていたのですが、その結果を見ますと、初期値と最終値において統計的に見ても有意差が5%水準、2年目の学生は1%水準で出ており、かなり厳しく測っても統計学的な結果が出ていますので、向上効果が見られたと思います。
 また、当プロジェクトの一つの目標である日本企業への就職についてもほぼ全員が達成することができていますし、BJTの点数、ランクを見ても向上していますので間違いなく効果は出ていると思います。

Q. BJTビジネス日本語能力テストの成績と就職内定の関係は実感としてあるのでしょうか。

統計的な調査はしていませんが、実感的にはありました。成績上位の学生は就職活動においては効率的に取り組んでおり、実際早い段階で希望の企業から内定を獲得していました。
 また、全体的な傾向として、漢字圏の学生の方が内定獲得するのが早く、非漢字圏の学生の方がその後に決まる傾向が見られました。

Q. 母国で日本語を学んでいない学生が来日して就職、学習する上で、苦労した部分や工夫された部分を教えて下さい。

2~4月にかけて合否を出し、すぐに「9月の来日時点で日本語能力検定のN3級のレベルを修得すべきこと」を伝えます。
 しかし、学生に日本語学習の全てを任せてしまうと、学習してこない人もいますので、Skypeを利用した面接を実施することで、日本語教育のナビゲーション(進捗管理)を行いました。
 Skypeでの面接は半年間で3回(ゴールデンウィーク前、7月、渡日前9月)実施し、発話力・聞き取り能力・口頭能力が、我々が望むレベルになっているかというのを確認し、フォローアップしました。
 また、渡日前により効果的に日本語学習ができるように、世界的に使われている『みんなの日本語』という初級の教科書に則った形で、日本語学習法のオリエンテーションの指南文書を作成し活用しました。また、母国で在籍している学校へもある程度の時間を語学に割いてほしいと協力要請することで渡日前の日本語学習のフォローを行いました。
 結果的には、漢字圏、非漢字圏によって発話力・聞き取り能力・口頭能力それぞれの個人差があり、また、不十分な学生もいたため来日後の予備教育を徹底的に行うことでフォローを行いました。

Q. 日本ビジネス文化の学習についてはどのように取り組んでいますか。

ビジネス日本語教育の中にも日本ビジネス文化関連のカリキュラムがあり、実際に名刺交換などのロールプレイは入っています。
 また、別途「ビジネス基礎論」という講座を自然科学研究科の授業として1年次後期に1科目2単位で開講しています。
 内容としては、日本企業が置かれている国内外の社会情勢、経済状態に基づいた企業活動を理解させる人材育成教育教材を企業と連携し開発し、日本企業の組織体制、ビジネス慣行、評価処遇制度、長期雇用型の雇用慣行、OJTによる人財育成、稟議制度、会議合議制などの意志決定システム等の日本独特の企業文化についての理解や特許、技術開発投資、技術情報管理、環境マネージメントと社会責任、品質評価と企業の危機管理などの基礎知識を付与するものです。
 また、ビジネス日本語教育との連携で、何回も補強した方が良い部分(報・連・相の徹底など)は意図的にビジネス日本語教育でも「ビジネス基礎論」でも学習し身につくように工夫しました。

Q. ビジネス日本語教育と就職支援でどのような連携をされているのでしょうか。

ビジネス日本語教育では、キャリアカウンセラーの方にゲストスピーカーとして何回か授業に参加して頂き、就職に関する話をしていただきました。
 また就職に関する座学の準備講座だけではなく、個別のカウンセリングもおこなっていただきました。一方で、日本語講師も、就職活動におけるエントリーシートの添削や就職面接の練習等で積極的に支援をすることで双方の連携をしています。

Q. 今後のビジネス日本語教育の学内での取り組みについて教えて下さい。

今年度は、パイロットケースとして留学生センターの中で「ビジネス日本語講座」を自然科学研究科だけではなく、全学に開放して実施しています。
 カリキュラムについては、1年半のコースで、アジア人財資金構想で実施している内容にアジア人財日本語補講の科目をもとにし、時間を240時間から180時間に圧縮しています。
 講義期間中に毎週2回(2科目)行う授業(前期・後期・前期の計6科目)と、夏休みに2週間で集中的に行う授業(2科目)、全体で8科目にわけて1年半かけて実施しています。
 学生の参加状況は10名で募集かけたところ、20名の応募がありました。意外にも文系の学生より、理系の学生の参加が多い状況です。

Q. 今まで取り組んできたことを踏まえたご感想や今後の展望などはありますか。

大学の中に就職支援や日本語教育というもののニーズが非常に大きく、可能性があると言う事を私達は理解しています。
 特に留学生センターの教員が深く関わりましたので、自然科学研究科の先生方とも繋がりが強くなりました。さらに大学全体で実施することによって、自然科学研究科も日本語教育に関する認知度が高くなった気がします。留学生センターでもビジネス日本語教育をやるべきだという雰囲気が非常に強くなりました。その結果として学内に講座が開設できたのだと思います。
 また、教育の事ですから今後この取り組みを継続させていく意志が一番重要ではないかと思います。
 教育というのは、例えば当プロジェクトの中で言えば、彼等を就職させればいいのではなくて、就職してどれだけ役に立つのか、彼等が生き生きと働いて架け橋人材、ブリッジ人材として活躍してくれる、そこまで見届け、フォローしていくのが努めなのではないかと思います。

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