取り組み事例紹介

学校法人 立命館 立命館大学

■ 産学連携専門教育プログラム

留学生と日本人学生の共同演習により相互理解から生まれる相乗効果

Q. 貴校の産学連携専門教育プログラムの概要を説明してください。

近年、日本企業が中国やベトナムでオフショアの形をとり、海外と協業したソフトウェアの製作や、海外で製作したソフトウェアを日本に輸入することが増えている中、日本の独特のソフトウェアの作り方を海外に伝え、海外でその作り方を学び、ソフトウェアを作ることができる人材が求められています。また、企業側は技術力を持っているだけでなく、現地で責任を持ってプロジェクトを遂行できるプロジェクトマネージャーやリーダーとなりうる高度人材を求めています。
 このような背景のもと、本学では「アジア人財資金構想」プログラムの中で、技術とマネージメントを教育し、企業が求める人材を輩出していくためのカリキュラムを作成しました。
 本学では、「IT」と「MOT」、そして「日本語教育・日本ビジネス教育」の3つの分野を教育の柱にしてプログラムを運営しています。
 また、3つのプログラムをそれぞれの分野ごとに実施するのではなく、複数分野を協調させながら教育することを特徴としています。例えば「MOT」と「IT」のコラボレーションで「プロジェクトマネージメント」や「リスクマネージメント」を教育したり、「IT」と「日本語」でIT分野独特のカタカナ語を教育したり、といったそれぞれの分野を複合的に組み合わせた教育を行っています。
 また本学の特徴として、座学の講義だけでなく実際のシステム開発プロセスを実習するワークショップを設けて、実践的な教育を行っています。

Q. カリキュラムの作成はどのような企業ニーズのもとに企業と連携して作られたのでしょうか。

まず産業界が求めている人材についてお話させていただきますと、家電や携帯端末などの組込み系と、企業の情報システム等のエンタープライズ系の両方の知識・スキルを持つ人材を必要としているということです。プロジェクトを始めるにあたって、企業ニーズを反映し、組込み系とエンタープライズ系の2つをカリキュラムの柱として構築することを決めました。
 エンタープライズ系の科目はもともと大学院科目として充実しているため、そのまま踏襲しましたが、組込み系の科目は全ての科目を企業と連携し新設しました。 また、ワークショップについては、企業と連携しながら就業後に即戦力で働けるように実践的なカリキュラムを構築しました。

Q. 実際の講義ではどのように企業と連携しているのでしょうか。

今回、産学連携で作成したカリキュラムについては、本学理工学研究科およびMOT研究科の教員と企業のシステム開発者・プロジェクト管理者の2名体制で、学術的な立場と開発現場の立場の2つの視点から互いに協力しながら学生に指導する「デュアル指導」を行っています。
 また、将来的な継続性の観点から学内で教育の質を担保しながら内製化できるように、昨年度からは、企業側の教育視点を学内教員が吸収して2つの視点から教育できるよう体制を整えています。
 座学の講義だけでなく、実践的な教育として位置づけているインターンシップについても、当然受け入れの部分で企業と連携を行っており、3割の学生がインターンシップ受け入れ先から内定を頂き就職することができました。インターンシップ先や就職先での企業側の感想の中で、特に日本語コミュニケーション能力の高さやリーダーシップを発揮できる積極性などの評価が高く、教育効果の現れだと思っています。

Q. カリキュラムのITの内容について詳しくご説明ください。

「IT」については、「組込みソフトウェア開発」、「エンタープライズソフトウェア開発」、「先進的計算機科学」の3つに分類され、「組込みソフトウェア工学」、「組込みソフトウェア開発」、「組込みシステム」、「オブジェクト指向」、「システムプログラム」、「セキュアコンピューティング」、「オープンソースシステム」、「データモデリング」、「ユビキタスコンピューティング」の9つの科目から構成されています。
 「IT」について、企業が求める人材像とリンクすると思いますが、やはり戦力となりうる知識と技術力を持った人材が求められますので、産学連携でこれまでの科目をブラッシュアップした内容になっています。
 最終的に、ワークショップの部分で実際にチームを組み、プログラム設計や実装、ドキュメント作成や成果物管理などを行うのですが、講義はワークショップを適切に行うための、系統的な学習と位置づけています。組込み系では、プログラムを組むということだけではなくて、品質の高いプログラムをどうやって作っていくか、自分で改善していくためにはどうしたらよいか、またリアルタイムOSのような、これから組込みに必要な技術を教えるというようなことを行っています。

Q. カリキュラムの「MOT」の内容について、詳しくご説明ください。

「MOT」については、「品質管理」、「技術経営」「知財」「文書管理」の4つに分類され「プロジェクトマネージメント」、「リスクマネージメント」、「ITマーケティング」、「技術経営概論」、「知的所有権」、「日本語文書管理」、「科学技術文書作成」の7つの科目から構成されます。
 「MOT」についても、企業はプロジェクトマネージャークラスの人材を求めているので、「プロジェクトマネージメント」の授業の中でも、オフショアのマネージメントはどうなっているのか、組込み技術の中での特徴的なマネージメントはどうなっているのか等、専門教育を行っています。

Q. カリキュラムの「ワークショップ」の内容について、詳しくご説明ください。

「ワークショップ」は、「組込みソフトウェア開発」、「エンタープライズソフトウェア開発」、「品質管理」の3つに分類され、「組込みソフトウェア開発基礎」、「組込みソフトウェア開発応用」、「エンタープライズソフトウェア開発」、「組込み・エンタープライズ連携システム開発」、「バディ実習」の5つの科目から構成されます。
 「組込みソフトウェア開発」、「エンタープライズソフトウェア開発」については、「IT」のカリキュラムで行った系統的な学習を、実践的に行いながら学習していくことを目的としています。1つの科目で6ヶ月の期間実施し、1年生で2科目、2年生で2科目履修することになります。
 「バディ実習」については「MOT」のカリキュラムで行った系統的な学習を実践的に行いながら学習していくことを目的としています。「バディ実習」では日本人学生と2人1組となり日本人がソフトウェアを作る作業をマネージメントする(日本人がマネージメントされる)実習を行っています。日本人学生は半分が学部生、半分が修士生なのでほぼ同じ知識を持った人材をマネージメントすることになります。実際に就業後はごく当たり前の業務となるため、学生時代に経験することはとても意義のあることだと考えています。

Q. カリキュラムの教育的な効果は見え始めているのでしょうか。

まずわかりやすい成果として、このプログラムを終了した1期生及び2期生全員が日本企業に就職もしくは内定獲得ができたことです。これは座学と実践的なワークショップを組み合わせた学習が、企業の求める人材像に近づいていることの現われであるとの感触を得ています。
 そして、「バディ実習」も、一緒に学習する日本人学生にもよい影響を与えているようです。例えば、日本人学生は留学生に何かを伝えるために、留学生が理解できる簡単な日本語を話さなければならないことに気づきます。最初は、日本語を学んでいる人たちとの意思疎通の難しさを感じますが、やがて自分がうまく話すと相手が理解してくれることを知り、日本人学生の異文化コミュニケーション能力を育成することにも役立ちました。
 またインターンシップ先の企業からも、留学生のインターンシップを受け入れると日本人社員にとっても好影響を与える、との感想をよく頂きます。留学生は非常にモチベーションが高く、この機会をフルに使って勉強したいという姿勢が、周りにいる日本人社員の刺激となり、仕事の活性化につながるという効果もあるようです。
 さらに、留学生が日本の日常生活の習慣を身に付けるために、毎週、事務局の定例会を行い、全員の行動を把握・共有し、同じ目線で、留学生に接することにしています。これは、留学生が社会人基礎力を身に付けるなど、役に立ったと考えています。
 このプログラムの教育の真価は、彼らが10年後にどのように企業で活躍しているかにあります。我々も同窓会を作り、長い目で彼らの活躍を見守るとともに、修了生の意見交換や後輩に対する支援の場として活用していきたいと考えています。

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