取り組み事例紹介

札幌商工会議所【北海道地域】

きめ細かなキャリアコンサルティングと独自の交流会が就職支援を活性化する

Q. 就職支援の取り組み概要についてご説明いただけないでしょうか。

北海道の就職支援の取り組みについては、座学での教育と個別のキャリアカウンセリング、NIJIの会、合同企業説明会などの企業との接点の3つの支援事業から成り立っています。
 まず、座学の教育については、ビジネス日本語の年間授業スケジュールに組み込んでいます。授業の中で就職活動のプロセスなどを解説した上で、ワークシートの使用例などについても説明します。しかし座学だけではスキルは身につきませんから、時間の許す限り実践的な指導を行うように心がけています。例えば日本語の練習も兼ねた模擬面接を行い、それをビデオに撮影して自分の行動を振り返ってもらったりするのです。
 それを引き継ぐ形で、カウンセラーが個別指導を行います。エントリーシートの練習の場合も、ビジネス日本語の授業では書き方の部分にフォーカスした指導をしていただき、内容面についてはカウンセラーがケアするというように、それぞれの役割分担を設けています。
 企業との接点については、北海道内の企業と留学生の交流の場として「NIJIの会」を立ち上げ企業と留学生が相互に理解し合える機会を創出しています。また、毎年2月には留学生に特化した合同企業説明会を開催しています。道内では留学生向けの合同企業説明会は民間を含めて他では開催されていないため、大学や留学生からも評価を頂いております。

Q. 留学生と日本人学生の就職支援で大きく異なるのはどういったところですか。

就職活動は日本独自の慣例です。多くの留学生は、大学3年生のときから就職活動が始まり、何十社にもエントリーして就職説明会や面接をこなさなければならないと知って戸惑います。ですから、まず日本の就職活動について十分に理解し、自分も日本人と同じステージから参加しなければいけないことに気づかせるのが大事です。その上で、企業が留学生のどんな能力に期待しているのかを勉強します。そういったプロセスだけでも、留学生と日本の学生の就職支援は大きく異なりますから、留学生に向けた就職支援はやはり必要だと言えます。就職支援ガイダンスもただ実施するのではなく、そこでの目的・課題を明確にしてあげることが大切です。
 キャリアカウンセリングに関しては、留学生の場合、日本人学生に比して長いスパンでの人生設計を考える必要があります。様々な事情からどこかの段階で帰国するということも視野に入れてカウンセリングせざるをえないのですが、そういった場合でも、日本とのつながりを活かしてもらえる方向でアドバイスしています。

Q. カウンセリングは何名体制でどのくらいの頻度で行っているのですか。

コーディネーター1名とカウンセラー5名ですが、コーディネーターがカウンセラーを兼任していますので、カウンセリングスタッフは実質6名体制で行っています。カウンセラー1名につき学生10名程度を担当します。我々は企業側の視点を持ったカウンセリングのチームを組んでおり、スタッフには企業での人事経験がある人材やアジアでの就業体験を持つ人材を起用することで、バランスのとれた人員配置をしています。週1回行っているチームミーティングの中で情報を共有し、改善すべきところがあれば留学生と担当カウンセラー及び事務局スタッフで三者面談を行うこともあります。
 カウンセリングの頻度については、札幌圏内の学生については、月に最低1度は行っています。採用試験が活発な時期には、都度学生の必要に応じて実施するようにしています。北海道地区では、札幌市内の他に、室蘭、北見と3カ所の拠点で教育を行っているのですが、室蘭、北見の遠隔地の場合どうしても回数が少なくなりますので、1回のカウンセリングの時間を長くしたり、メールや電話でもケアしています。

Q. 留学生からはメンタル面でのカウンセリングの希望もあるのではないですか。

就職活動を始めたときは、頑張ればどんな企業でも入れるのではないかという期待を持っています。しかし、アジア人財資金構想の留学生は総じて優秀で、これまで挫折した経験が乏しいため、不採用になった場合、自分の存在を全否定されたかのように感じてしまうことが往々にして起こります。そういったときは学生の話をじっくり聞きながら、どこに目標があるのか、何のためにここまで頑張ってきたのか、今後どのように取り組んでいくかを一緒に考えます。不採用になったのはたまたま縁がなかっただけだということを教えることが大切です。その上でもう少し改善すべきところがないかを検討しながら、課題を丁寧に掘り起こしていきます。

Q. SPI等の筆記試験についてはどういった対策を取られています。

日本人なら誰もが知っている一般常識も、留学生にとっては難問である場合が珍しくありません。できるだけ効率的な学習を行うためには、学生の志望企業や業界を絞りこみ、該当企業の過去問題を集めて対策を行う必要があります。知識を詰め込むのは限界がありますから、テストの形式に慣れることを目標にしています。

Q. 就職支援では企業を学生に紹介することがあるのでしょうか?

基本的には、働きたい企業を学生が自発的に探します。「NIJIの会」や商工会議所を通じて、企業からこのような学生を探しているというお話は当然あります。そのときは、まず該当しそうな学生さんを選定して、興味があるかどうかお話します。その中で興味を示した学生については、事前にまずその企業について一緒に勉強します。誘われたから行くのではなく、自発的に行きたいと思うのかどうか、話し合います。自分の希望を考えずに採用試験を受け、万が一受かったとしても、就職後の定着にまで結びつきませんので、そのあたりは徹底的に指導します。

Q. 留学生のキャリアカウンセリングをする際に求められる資質とは何でしょう?

多角的な視点を持ち、相手の異質なものを受け入れつつ、彼らにとって異質なものを受け入れさせることができる能力でしょうか。多くの大学にとって、留学生専門のカウンセラーを養成するのはあまり現実的ではないと思われますので、カウンセラーの皆さんに期待したいのは、多くの留学生との対話を重ねて彼らの特徴を見抜いてほしいということです。例えば中国の留学生は、滅多なことでは自分の弱みを見せようとしません。中国という競争社会において、弱みを見せれば成功できないという教育を受けているからです。しかし、日本では自らの弱点を認め、それを克服しようと努力を惜しまない人物が評価されます。このことを理解してもらわなければなりません。その意味では私たちに求められているのは、カウンセリングというよりコンサルティングです。岐路において道を示し、背中を押してあげることが大切なのです。

Q. 北海道地区での取り組み「NIJIの会」について教えてください。

プログラム開始当時、北海道内の留学生を積極的に採用する企業の絶対数が少なく、留学生を採用する企業を増やす必要性がありました。企業を訪問して啓蒙活動およびヒアリングを行った際に、留学生を採用することに躊躇する企業が多く、その理由として留学生は日本語が話せるのか、あるいはすぐ辞めるのではないかといったイメージが強いということがわかりました。
 一方で、留学生は北海道の企業を知らないため、就職志望は本州の企業が圧倒的に多い。つまり、お互いをよく知らないわけです。そういった状態では、最適なマッチングは望めないのです。そこで留学生と企業の交流の場として立ち上げたのが「NIJIの会」で、2008年の8月にスタートしました。現在は2ヶ月に一度のペースで例会を行っています。留学生ばかりでなく、企業も参加してよかったと思える会になるよう心がけています。
 例会では、受付から司会進行まですべて留学生に担当させ、日ごろのビジネスや日本語学習の実践の場としても活用頂いています。また、道内企業の海外ビジネスや外国人採用を促すため、定期的に情報を発信できるように「NIJI通信」という会報誌を発行し、企業への情報提供を行っています。

Q. 「NIJIの会」の立ち上げや運営にあたって苦労した点はどのあたりでしょう。

参加企業の開拓は容易ではありませんでした。もともと道内企業で留学生採用を行っている企業が少なく、企業に赴いて留学生のことを一から説明しなければなりませんから。しかし、苦労の甲斐あって、現在は138社の協力が得られています。当初は業種を絞らずに企業を開拓していきましたが、昨年の夏以降、インターンシップを終えてからは、外国人採用が多い観光業や製造業、海外に拠点を持つ企業に力を入れてまいりました。「NIJIの会」の成果としては、札幌市内のインターンシップは全て「NIJIの会」の企業でまかなえたことと、昨年は「NIJIの会」会員企業に4名の修了生を採用していただくことができました。最近は、企業から留学生を採用したいと相談を受けることが多くなり、本事業が口コミでも広がってきています。

Q. 留学生向けの合同企業説明会についてもおうかがいしたいです。
アジア人財資金構想がスタートする前から、
こういった企業説明会を実施していたのですか。

札幌商工会議所は、平成16年度から中国人留学生と企業とのマッチングを行う交流を開催しており、それがベースになっています。現在の合同企業説明会は平成19年度から開催しており、今年は27社の企業とアジア人財資金構想の参加大学に在籍する留学生109名が参加しました。道内では、留学生向けの合同企業説明会が民間を含めて他では開催されないため、大学や留学生に好評でした。今後は、参加が採用につながるという実感を学生が持てれば、もっと広まると思います。大学にも参加学生の募集の面でかなり協力していただきました。大学からは是非今後も継続してほしいと望まれていますし、学生からもこういった機会がもっとほしいという要望が出ています。

Q. アジア人財資金構想も4年目に入ろうとしていますが、大学側の留学生に対する意識に変化はありますか。

各大学によって様々な事情がありますが、留学生支援室の必要性は感じているように思います。少子化の影響もあって、学生確保の面でも留学生に対するケアをきちんとしなければならないと感じているようです。各大学による独自の取り組みも進んでおり、札幌市内のある私大ではゼミの先生が学生の就職支援に関わっていますし、別の大学では個別に面談指導を実施してデータベースで管理しているようです。
 アジア人財資金構想においても23年度以降の事業の自立化に向けて、各大学と連携して留学生、企業、大学がwin-win-winとなれるような仕組みを構築し、日本で就職をめざす学生を応援していけるような素地をつくれたらいいと考えています。

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